青葉

□不可解な感情の名前
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正直、あの後の記憶は曖昧だったりする。

映像としては頭に残っているのだが、何を喋っていたのか憶えていない。

しばらくの間、あの場に居た者達から具合でも悪いのじゃないかと心配され、侍女からは最近、表情が女性らしく柔らかくなったと嫌味を言われ、鬱陶しい毎日を過ごしている。


そんな中、唯一怪我の功名とでもいえる事があった。

それまで、物に対して固執した事の無い私に、大切なモノが一つ出来た。

先日の用件について再確認の為に届けられた手紙の最後に、あの日の様子が違う事を彼が心配してくれていた。

たった一言、飾り気の無いそのストレートな彼らしい一文を目にする度に、あの日自覚した気持ちが溢れそうになる。

苦しくて、それでも幸せを感じてしまう一時。


目の前の鏡に映る、見慣れない自分の表情を見ながら思う。

もう、無駄な抵抗は止めようと。


息を深く吐き出した。

それまでの胸のモヤモヤも息と共に吐き出せたかのように、軽くなっていた。

何時もの自分が戻った気がした。


「・・・そうだな、ウジウジ悩むなんて、らしくないな。 いつかみてろよ。 このあたしを、こんな気持ちにさせた落とし前を必ず付けさせてやるからな。 覚悟しとけよー。」


鏡の中の恋する乙女は、晴れ晴れとした笑顔で恋の勝負を高らかに宣言した。



「おう?! 何だ? 何か、今悪寒がしたよな。 風邪の前兆か? 今日は大事とって、何時ものチョウジの誘いは断って、早めに帰って寝るか・・・。」


その頃、遠く離れた木の葉の里で、一人の男が得体の知れないプレッシャーを本能的に感じ取り、身震いしていたのは誰も知らない話。



〈Fin〉
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