青葉

□不可解な感情の名前
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「あっ、テマリ様。 此方でしたか。 ご報告が。」

「どうした? 何かあったのか?」


歩みを遅める事もせず、視線だけ近付いてきたその者に向ける。


「はい。 木の葉の方が、予定よりも早く到着したとの事で、ご一報をと思いまして。」

「!」

「? テマリ様? どうかなさいましたか?」

「い、いや。 何でもない。 それでは、予定の時間まで部屋で寛いでいて貰うよう、取り計らってくれ。」

「はい。 承知いたしました。」


再び人気の無くなった廊下に響く靴音を聞きながら、はっきりと自覚した。

何時も通りじゃないと。



な、何だ!?

何で、こんなに私は動揺しているんだ!?



身体が熱い。

心臓が早鐘のように鳴っている。

敵と戦っている時だって、こんなに鼓動を意識した事は無いというのに。

一体、如何したというのだ。

私は、風影の娘として生まれ、砂の忍として育ってきた。

こんな感情なんて感じた事ないし、感じる必要も無いはずなのに。



いつの間にか、自分でも理由の分からないこの感情について考え耽っていたらしい。

遠くで、自分の名前を呼んでいる声がした。

その声で、自分が長い事、誰も居ない廊下に一人たたずんでいた事を知った。


自分を探して、名前を呼ぶ声が近付いて来た。

その声が近付くにつれ、内側の世界に深く潜っていた感覚が戻って来るのを感じる。


ああ、そうだった。

私は、風影の娘。

現風影の姉。

そして、砂隠れの忍。

こんな不可解な感情に支配されている場合ではないのだ。


自分の立場を冷静に見詰め直す。

身体の熱が、醒めて行くのがはっきりと分かる。
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