青葉
□不可解な感情の名前
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そこには、彼がいた。
特に変わった様子もなく、自分に気付くと何時ものように、少し紗に構えた感じで『よう』と声を掛けてきた。
この瞬間、それまで不可解だったあの受け入れ難い感情の名前が理解出来た。
・・・ああ。
こいつは。
私がこんなにも、心を乱しているというのに。
−いや、違う。
ただの、八つ当たりだな。
そう、こいつには関係無い。
悔しいが、私が勝手に心を乱しているだけなのだ。
どんなに理性で抑えようとしても、ただ一目その姿を見ただけで、苦悩の末のその抑えをいとも簡単に跳ね除けてしまう。
理由なんて、無い。
ただ、
そう、ただ好きなのだ。
もしかすると、涙が出てしまいそうになるくらい。
彼の、その存在其のものが。
自分のコントロールを離れてしまった体が、勝手に反応していた。
その部屋にいた全員が、驚きを隠そうともせずに、自分を見つめている。
目の前の彼も例外ではなくて。
その表情が見慣れなくて、可笑しいくらいだった。
彼もそうだったのかもしれない。
泣き顔とも取れそうな笑みを浮かべている自分が、そこに居た。