ナナイロ

□ハルイチバン  ‐ハルのアラシ‐
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〔芽吹キ〕



何だかな。

濡れたシャツを着替えながら、思う。

一体、今日だけで、どれだけ動揺したのだろう。

もちろん、その時には全く、そんな事を考える余裕なんて無かったけれど。

よくよく考えてみれば、おかしな日だったのだ。

彼女に関する事だけ、イレギュラーばかりだった。


それでも、放って置けなかった。

あんな彼女を見てしまったから。

そして、思ってしまったから。

今までとは違う、彼女に対する感情。

(同情、なのか。 それとも…。)


落ち着かない気分のまま、新たなネクタイを締め直して、そろそろお開きになるであろう、宴の場に向かって自室を後にした。



元々、パーティーや人が多い場所は好きじゃない。

過去のトラウマも、大いに影響していて。

仕事でもなければ、真っ先にトンズラしている所だ。


一通り、場が落ち着いたのを確認して、目立たない扉から外に出た。

外は、思っていたよりも気温が低く、ヒンヤリとしていた。

やっと、煩わしい場所から解放され、新鮮な空気を吸い込みながら、思い切り伸びをする。


ふと、視界の隅に人影を捉えた。

そこは、ベランダになっており、自分の居る場所から右てにある階段でそこに移動出来るようになっていた。


(なんだ、先客がいやがったか。)

やっと、一人になれたと思っていたのに、肩透かしをくらった感じだった。

とはいえ、また中に戻る気にもなれず、人影が早くその場を立ち去ってくれるよう願いながら、落ち着かない気分で佇んでいた。


徐々に目が暗さに慣れてきて、影でしかなかった先客の様子がだいぶ分かるようになってきた。

表情はずっと、空を見上げているようで分からなかったが、服装から若い女である事は確認出来た。

目が慣れてきたのと、こちらに全く気が付いていないのをいい事に、相手に気付かれたら、かなり引かれるくらい凝視していた。

そして、ふと、ある知り合いの服装とよく似ている事に気が付いた。


(うん? あの服の感じは…。 もしかして、アイツ、か?)

先客が思い当たる人物なら、今までしていた遠慮は無駄だったと思うと、何となく腹が立ってきた。
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