hbyz


□優等生yzくんの秘密
1ページ/1ページ

「ユヅ、今日の放課後ナムと一緒に僕の家でゲームするんだ、ユヅも来ないかい?」
「ダメだって。ユヅは真面目人間だからテスト期間は家から出ないよ」
「何だよ、その言い方…テスト期間に遊ぶ方がおかしいよ」
「だってユヅはテスト期間中じゃなくてもなかなか遊びに出ないじゃないか、たまには息抜きも大事だよ」

ナムの言う通り、ユヅはなかなか遊びに出ない。休日に何をしてるのか聞いたら勉強や本を読んだり過ごしてるらしい。優等生の模範解答だ。ユヅは2学期からこの学校に留学してきた。カナダは治安がよく安定した政治や移住のしやすから留学生にも好まれる国だ。僕たちのクラスも英語が母国語ではない生徒が多く、授業や生活なども留学生の受け入れ体制がしっかりとしていて勉学に専念できている。ユヅは僕のクラスにきた当初は英語がまだ得意ではなかった。そのせいか僕の最初のユヅの印象は大人しい日本人だなという印象だった。ある日の休み時間、ユヅがポツンと1人席で本を読む姿を見て僕は話かけてみた。同じ留学生として外国の学校で過ごす心細い気持ちは分かる。僕が話かけた時は明らかにユヅの表情は固かった。だけどめげずにユヅと話していくうち、僕の冗談にもよく笑ってくれようになった。初めて僕に満面の笑顔を向けてくれた時は本当に嬉しかった。それから隣のクラスのナムと一緒にユヅに英語を教えたり、休み時間は共に過ごすのが当たり前になっていた。日々を過ごしていくうち、正直に言うと僕はユヅに惹かれていった。だけど同性なことや、想いを告げてこの友情が壊れるのを想像すると怖くて僕はこの片思いは心の底で秘めていようと思った。もちろんナムも知らないだろう。
「じゃあさ、ハビのアパートで勉強会しようよ、ユヅに教えてほしいんだ」
「それいいじゃないか。僕もユヅに勉強教えてほしいよ。それにユヅ、エフィに会いたいだろう」
「うーん、エフィちゃん…」
ユヅが大の猫好きなのは知ってる。エフィという名前をだしたら真面目なユヅさえ絶対NOとは言わない。
「…いいよ、放課後ハビの家にいくよ」
しばらく考える素振りをしたユヅだったけどやっぱりエフィには弱いらしい。
「やったー!オレ全然分からない問題あったんだよね、ユヅに教えてもらおーと!オレは用事を済ませてからハビの家に向かうから2人とも先に勉強初めててね」
タイミングよくチャイムが鳴り嵐のように自分のクラスに戻っていくナムを僕たちはクスクスと笑いながら見送った。



「おじゃましまーす、あ!エフィちゃん」
「いらっしゃい」
僕より先にエフィに反応してデレデレなユヅにちょっとヤキモチをやいてしまった。
「あ!そういえばアイスクリーム持ってきたんだ。母さんがハビたちにもって、保冷バッグにいれたから溶けてないと思うけど」
「面白いパッケージだね」
「日本のアイスだよ。ガリガリ君って言うんだ。ナムの分もあるけど2人で先に食べちゃお!定番のソーダ味が美味しいんだよ」
ソファに座り美味しそうにアイスを食べるユヅ。僕もユヅの隣に座りアイスを口に入れる。爽やかな味が口に広がりその美味しさに驚く。
「ユヅ!これすごく美味しいよ。今までの日本の食べ物で1番だよ」
「ふふっ、ハビは大袈裟だな」

アイスをパクパク食べながらふとユヅの方を見た瞬間、僕は衝撃を受けた。ペロリとアイスを舐めるユヅの舌の中央に銀色の光が見えたのだ。見間違えではなければそれは舌ピアスだった。
「ユっ、ユヅ、君…もしかして舌にピアス開けてるの?」
「へ?ああ、これね」
ユヅはゆっくりと口を開けて舌を突き出す。アイスで冷たくなった舌は赤くなり、唾液でてらてらと光るその舌には間違えなく銀色のピアスがある。
「びっくりした?」
「ああ、だって君がピアスなんて、全然イメージが湧かなくて…」
「ふふっ、そうだね。ナムやみんなには内緒だよ?」
そう言って、舌をチラチラとのぞかせながらいたずらに笑うユヅに僕は動揺が止まらなかった。あの真面目なユヅがピアスなんて。仲良くなってからユヅのことはよく知ってるつもりだった。だけどまだユヅの隠された面があったんだ。それに、先ほどの上目遣いで舌ピアスを見せつける表情はなんとも言えない色気があり情欲的に見えた。

「どうしたの?急に黙り込んで…もしかしてハビはピアスしてる人苦手だった?」
「違うよ、そんなことない。ただ本当にびっくりしたんだ。ユヅの知らない面が見れてドキドキだよ」
「そう、なら良かった。ハビに嫌われたら俺死んじゃいそう」
「僕がユヅを嫌うなんてありえないよ」
そう。ありえないだろう。僕は心底ユヅに惚れてるんだから。きっとどんな秘密があろうとユヅを愛するだろう。

「…ねえ、ハビ知ってる?舌ピアスで口の中や体をいじられるのってすごく気持ちいいんだって」
「えっ…」
「俺キスしたことないから分からないんだよね。ハビ試してみない?」
ユヅは僕の方を見つめながら囁くように言った。僕は手に持っている溶けかけてアイスの水滴が伝う感触を感じながらただユヅを見ることしかできない。心臓は爆発しそうなほど鼓動が早い。ユヅの手が僕の頬を撫でそして顔が近づく。そしてユヅの吐息が僕の唇に感じた瞬間…

「ブー」というチャイムが部屋に響き渡り鳴りナムが来たことを知らせた。
「ナムがきたみたいだね」
ユヅは僕の頬から手をそっと離し立ち上がり玄関へと向かった。頬にはまだユヅの体温が残っている。僕は戸惑っていたばかりで何も行動できなかった。今まで付き合ってきた女の子はもっと積極的に行けたのに。でもきっとそれは、その女の子たちにあまり好きだという感情を持たず恋愛ごっこのような成り行きで付き合っていたからだろう。でもユヅは違う。こんなに心乱され、うだうだと悩んでしまう、ユヅが特別だから。こんなにユヅのことが好きだなんて。
玄関ではナムを迎え入れたのだろう、2人の賑やかな声が近づいてくる。
「あ!2人で先に何か食べてたの?!オレ抜きなんてひどいよ〜」
「大丈夫。ちゃんとナムのもあるよ。食べたら勉強開始しようか」
「え〜!先にゲームしようよ」
ナムのおちゃらけた話とユヅの笑い声とツッコミにさっきの出来事は夢だったのかのようだ。
ナムはぶつぶつ文句をいいながら仕方なさそうに教科書とノートを開き、僕たちはユヅの教え通りテスト勉強した。


***

ユヅの秘密を知ってから数日後。
僕たちは特にあの時の話をすることもなく、前と変わらぬ日々を送っていた。
あまりの変化のない日々に、あの時ユヅとキスできてたらなあと妄想したりもするけど、ユヅの一番の友達というポジションも手放したくし満足だったので僕はまあいいかと考えた。

そしてある日の午後の授業。年老いた先生は教科書片手に一生懸命ボードにたくさんの文章を書いている。僕の席は後ろの窓際で今日の天気はぽかぽか、窓からは穏やかな風が少し吹き最高の昼寝日和だ。ぐるりと教室中を見回してみると他の生徒もうとうとしていたりこっそりスマホをみたり自由な生徒が多数いる。僕はいつもの癖で斜め前の席のユヅを見つめた。すると急にユヅがこちらを振り向いた。そして一瞬、チラッと舌をだし、ピアスを見せたのだ。
ユヅはすぐに正面を向いた。だけど僕はその一瞬でとてつもない優越感に満たされた。
僕だけが知っているユヅの秘密。きっとこの先は、いつもと違うユヅとの日常が始まる予感がして胸が高鳴った。
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ