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□開花
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ソチオリンピックが終わり金メダリストとして日本でメディアに追われる日々と出演予定だったアイスショーも無事終え、また新たなシーズンに向けトレーニングするため練習拠点のカナダに戻ってきたとこだ。

オリンピックで金メダルをとるというひとつの夢を叶えた今、俺は心に潜めたある願望を実現させたいと考えていた。


それは《緊縛》


きっかけは日本に帰ったときたまたま見つけたレトロな古本屋。人も少ないしなんとなく入ってみて何かおもしろそうな本はないかといろいろ見ていると、浮世絵のような日本画で描かれた美しい女の人の表紙を見つけた。パラパラっと捲っていると、中性的な美少年が裸で縄に縛られている画が目に止まった。性的なことにあまり興味がない俺でも一応そういうジャンルの性癖の人がいることや、プレイがあることは知っていた。少年は一見苦し気だがどこか陶酔したような虚ろな官能的な表情を浮かべているようにも見えた。美しい白い肌に絡み付く縄に何だか見てはいけないもの見てしまったような背徳感と同時にその画が目に焼き付いた。

うちに帰ってからも今日見たあの画が頭から離れず好奇心からさっそくネットで検索してみた。「緊縛」というらしい。主にSMプレイで用いられる印象が強いがその他に芸術や鑑賞するためなどもあるようだ。最近は緊縛体験などのイベントや、大学にも緊縛同好会などがあるらしく驚いた。実際に緊縛されている人の画像を見ると、やはりあの画の少年のように苦しそうだが恍惚として快楽を感じているように見える。エロチックだけどそれよりもアートを見ているように美しい。縛られるってどんな感じなんだろう。この人たちが羨ましい、俺も縛られてみたい。ただの好奇心だったものがいつしか緊縛されたいという願望に変わっていった。

緊縛行為は一歩間違えると血管の血液の流れを阻害して一部が壊死したり、最悪の場合死んでしまう危ない行為でもある。縛る側と縛られる側、二人の信頼関係が必要なようだ。俺が信頼しているといえばライバルでありチームメイトとして共に切磋琢磨するハビしかいない。彼が最適な人だ。理由はまだある。俺がロッカールームで着替えるときやストレッチをしているときハビが俺に向ける目は情欲的だと感じていた。常に人に見られることを意識しないといけない身としてあらゆる視線に敏感なのでわりとはやく気づいた。好意からかそれとも性的に見ているだけかは俺には分からないけどハビが俺に嫌な感情を持ってないことは確信してる。俺もハビにそう見られることになぜか嫌悪感はなかったしそれにこんなこと頼めるのはハビしかいないからっていう理由もあるんだけど…優しいハビならきっと受け入れてくれるという自信があった。

今日もいつものように練習前のウォームアップをしながら、「緊縛されたい」という願望を実現させる日をいつにしようか、どう誘おうかと考えているとタイミング良くハビが新しいゲームを買ったからうちに遊びにこないかと誘ってきた。巡ってきたチャンスに俺は心の中でガッツポーズをした。



「やあユヅ!いらっしゃい」

「久しぶりのハビの家だ!お邪魔しまーす」

いつもの優しい笑顔で迎え入れてくれたハビに思わず俺も笑顔になる。ハビが用意してくれたディナーをすませ早速ゲームの用意をしていたハビを俺が座っているソファの隣に呼び話を切り出した。

「ハビ…実はハビにお願いがあるんだ、これはハビにしか頼めないことなんだけど…」

「僕にしか頼めないことって何だい?僕ができることなら何でもするよ」

「いきなりでびっくりするかもしれないけど…ハビ…!俺を縛ってほしいんだ!」

俺はリュックからこの日のためにネットで注文した緊縛用の縄を取り出しそう言った。

ただでさえぱっちりしたハビの目がさらに大きく開いてきょとんとしている。

「ユヅ?縛ってほしいってどういうことだい?君の言ってること全く分からないよ…」

「そのままだよ。ハビがこの縄で俺の体を縛ってほしいんだ」

さすがにこのままじゃハビは混乱してしまうよなと思い俺は古本屋で心惹かれた画集の話をし緊縛に興味を持ったことを話した。

「こんなこと、ハビにしか頼めない」

俺はハビの手を両手で包み込み囁いた。

そして少しの沈黙があったあと…

「ユヅ…分かったよ…君の頼み、僕が断れるわけないよ」




「それを手首に回した縄の内側に入れて、」

俺の教え通りハビが縄を操る。

<後手縛り>両腕を背中側で組み、その腕を束ねるように縛った所を起点として背中の中央を展開点として上腕と胸元に縄をかけていく縛り方。この縛りは緊縛の基本となる要素がつまっているらしい。俺はネットで調べ挙げた縛る際の注意点やこの後手縛りのやり方を徹底的に頭に叩きこんでいた。

手首を縛り終え、次は上半身。
指示通りにハビが胸の上に縄を回す。

「…んっ」

ハビが縄を引く度身体もひっぱられ思わず声が漏れる。

「ユヅ痛くないかい?続けて本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ…続けて」

体が固定されていくうち、今の自分は何をされても一切抵抗できない。俺の身体はすでにハビのなすがまま。なのに不思議な安堵感があり、この状況に胸が高鳴っていく。服の上からでも感じるハビの手の体温、縄を後ろから前に回すときに近づく距離に感じる息づかいがさらに感情を高ぶらせた。

「最後に縄の下のほうを1回転させて縄の頭に結んで」

ハビが縄を結び終え完成した。

服の上からということもあり予想していた様な痛みはない。身体を締め付ける縄の圧迫感とハビに縛られていくときの言葉にできない初めての感情。身体が熱くじわじわと汗ばんでいる。呼吸も荒くなり自然に目が潤む。俺が緊縛に興味をもったきっかけのあの画の少年が陶酔しているような表情をしていた気持ちが分かったような気がした。俺はたまらず後ろにいるハビの胸にもたれかかる。

「…はぁっ、ハビ…」

「ユヅ…大丈夫かい。苦しそうだよ。すぐほどくから」

ハビのゴツゴツとした骨ばった手が縄をほどくため肩や胸の上を滑っていく瞬間、体がビクッと反応した。熱が触れてはいない下半身に溜まっていく。縛られていく時よりも強く感じるハビの手の動きにどうしていいか分からず、膝同士を擦り合わせても余計にもどかしくなる一報だ。縄を全て解きおわってもまだ体を縛られていた感覚が残ってる。俺はまだぼーっとする頭で縄と体の熱の余韻に浸っていると、ハビが後ろから抱きしめてきた。俺の手首についた縄の痕をハビの指が優しく撫でハビの温かい息が耳元にかかりたまらず声がもれる。

「…んっ…ハビ」

「ユヅ、縛られてどんな気持ちがしたの。すごく気持ち良さそうに見えたけど」

「うん…良かったかも」

俺はゆっくりと体を動かしハビと向き合う形になりハビの首に腕を回し抱きつく、するとすぐハビの逞しい腕が背中に回った。太い首に顔を埋め、ハビの匂いを鼻いっぱい吸い込むと安心し身体の力が抜ける。

「ユヅ」

名前を呼ばれ顔を見上げるとハビの目が欲を孕みギラギラしている。いつも優しく穏やかなハビがこんな表情するとこを初めてみた。お互いに見つ目合っているとハビが少し首かがめ顔を近づける。俺もゆっくりとハビの方へ首を伸ばせば自然とハビの唇が俺の唇に重る。初めてのキスなのに優しく俺の唇を啄んでくるだけのキスにだんだんもどかしくなりどうしようかと口を僅かに開けた瞬間、待っていたかのようにハビの舌が侵入してくる。
「んっ…ふっ…!」
狭い口内はハビの舌でいっぱいになり歯列をなぞり、上顎を舐め上げられ、下顎に張り付いて逃げていた舌を吸い付くされ、緊縛されていたとき感じた同じような熱が身体を巡る。疼きがとまらない。

「ハビもっとしよ…したいよっ」
再びハビの首に顔を埋めそう言うとハビが唾を飲む音が聞こえた。

ハビが俺の着ているシャツのボタンを外していく…


好奇心から始まった緊縛という行為。身体を締め付ける縄の感覚、縛られている時に感じた支配されているという精神的快楽とハビが触れる度に身体に広がっていく熱を知ってしまった俺はもうきっと抜け出せない。
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