8つの枢要罪

□Prequel
2ページ/2ページ

――――――――――




 
声が聞こえる

御伽噺に出てきたような
恋慕にも似た、縋る声

その声に導かれるまま、すらりとした指が伸びる白い手を取った

後悔はないかと聞かれ、首を縦に振る

刹那

暗闇に覆われた




ガラガラと、何かが運ばれるような音にハッとする

それに混じって、蹄の音が響いた

暗い森の中を進むのは、棺を積んだ馬車

不思議な光景に、夢を見ているのかとぼんやり思っていた矢先

再び真っ暗な闇に飲まれる





グルル、と低い唸り声に目を見開く

そこにはメラメラと燃え盛る蒼炎の鬣を揺らす黒い獣が、鋭い眼光でこちらを射抜き、牙を剥き出しにしていた

ドクドクと心音が身体中に響き渡る

黒い獣

否、魔獣と呼ぶに相応しいソレは
異様な姿をしていた

黒いレースのような物が額を覆い
鬣の間からは蛸の足に似た物が数本伸び
前脚は巨大な人の手の形をしていて
後脚は鋭い爪が連なり、龍のような鱗が見え
背中にも翼龍を思わせる大きな翼があり
蛇の尾が赤い舌を出して睨みを利かせている


ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尾を持つ架空の怪物機がキメラを彷彿とさせるが
目の前の黒い魔獣が放つ禍々しさは、見た目のそれたけではなく常軌を逸していた

が、立ち竦むミコトを他所に、黒いローブを纏った青年が2人
魔獣の前に歩み出る


「では指示の通りに」

「君を信用するには些か不安だね」


薄く笑う2人の青年に、ミコトは止めるべく声を上げる

が、喉が張り付いているかのようで
声が全く出せない


無理だ

勝てない


初めて見た魔物であるにも関わらず
初めて見た場所であるにも関わらず
この勝負の結末を知っている気がして

赤く揺らめく炎や、凍てつく氷、大樹の蔦が魔獣にダメージを与えるが
決定打にはなり得ない


駄目だ

また―…


そんな言葉が頭を支配する

そして魔獣が咆哮を轟かせ
鋭利な牙を剥き出しにして2人の青年に襲い掛かった


「待って!!」


絞り出すようにして叫び、魔獣と青年との間に駆け出したミコト

ドス黒い感情に支配された黒い魔獣が、前肢を思い切り振りかぶる

息を飲んだのを背後に感じ、切望にも似た誓いを立てた





そこでプツリと途切れる

途切れたのは意識か命か

知る術はない


何が起きたのか

知っているような、知りたくないような


無の時間を味わって、警告とも取れる声を聞く





   私に 彼等に 君に
   残された時間は少ない





――――――――――


次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ