タプテソ

□特製スパイスを少々
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「なに、どうした。もう大学の講義終わったのか?」

「はい・・・」


頷いただけでそれ以上なにも言わないテソナ。

「すぐに行くから待っててよ」


何か話を聞いてもらいたいんだろう。俺はしょげているテソナの頭をワシャワシャと撫でて、片付けを早く終わらせるべく自分の部署へと戻った。












「聞いてください!スンヒョニヒョンったら、ひどいんです!」


ずるずるとラーメンを勢いよくすすったかと思えばもぐもぐしながら怒りに任せて話をするテソナ。先程の落ち込んだ様子とはえらい違いだ。
大学終わりだし腹も減っているだろうと帰り道にあるラーメン屋にやって来た。しゅん、と落ち込んでいたテソナもラーメンを奢ると言うと目を輝かせて喜ぶんだから可愛いもんだ。


「うんうん。分かったから、食べるか話すかどっちかにしなよ」

口端についたスープの雫を席に備え付けのペーパーで拭ってやる。素直にコクリと頷いたテソナは何回か咀嚼したあとごくん、と飲み込んだ。大学生とは思えない子供さながらの食べっぷりは見ていて気持ちいい。


「…今日の朝に、いつも通りスンヒョニヒョンと駅まで一緒に行ってたんですけど、その時に思いきって聞いてみたんです。『スンヒョニヒョン恋人作らないのー?』って」

「うん」


今テソナが絶賛話中の登場人物、チェ・スンヒョンはテソナの中学からの先輩である。テソナの想い人でもある彼は彫刻のような端正な顔立ちが特徴で女の子からの人気が高い。俺ほどではないけど。人を惹きつける不思議なオーラを纏う彼を好きにならない女の子はなかなかいない。その競争率の高さにテソナはいつも焦っていた。焦らなくても、テソナは十分可愛いのに。俺がいつもそう言ってやるのにテソンは本気に捉えたことがない。

大学時代、同じサークルの先輩後輩であることから仲良くなったテソンから、俺は度々こうやって恋の相談をされている。

その度に胸を痛めている俺の存在に気づいて欲しいような欲しくないような。


「そしたらスンヒョニヒョンは『んー』って笑った後、『テソナがいい恋人を見つけたらね』とか言うんです!あの人本当に無神経!!」


言い終えるとまた勢いよくズルズルー!とラーメンをすするテソナ。心なしか目が潤んでいるがそこにはあえて触れず俺も冷える前にとラーメンを食べた。
僕の気持ち、ちっとも分かってない・・・!と食べならが愚痴るテソンの横で、お前こそ彼の気持ちを分かってないのに と思うが、それは教えてあげない。自分の心を抑えて相談に乗ってあげているんだからそれくらいの邪魔は許して欲しい。

でもこの手の内容の相談もかれこれ2年続いている。そろそろ俺の気持ちにも踏ん切りつけたいな・・・なんて思いながら未だスンヒョニヒョンへの愚痴を言っているテソンに持っている箸の先をピッと向けた。


「?ヒョン、箸で人を指さすのは行儀悪いですよ」

「俺さ、いいこと思いついんだけど」

「なんですか?」

「スンヒョニヒョンにさ、ジヨニヒョンとエッチしたって言ってみ」

「えっち…えっちねぇ………えっち……えっち!?!?」

俺の発言にやっと頭が追いついたのかカウンターの高めの椅子から動揺で落ちそうになるテソンの腕を掴んで支える。スンヒョニヒョンのことが昔から好きで未だ実ってないんだからテソナはもちろん童貞処女だって分かってるけど、ここまでウブな反応をされると・・・うん可愛いな。


「嫌ですよ!ヒョンとえっちしてないですし!嘘つけないです!!」

「スンヒョニヒョンがもしテソナのこと弟みたいに思ってたらさ、恋人出来たんだよかったね!って言うだろ?それ言われたらもう終わり、この恋は諦めろ。」

「えー」

「えー、じゃない。一番いい方法だぞ?告白しなくても相手の気持ちが分かるから結果振られたことになってもスンヒョニヒョンを好きって気持ちはバレないから今まで通り仲の良い先輩後輩でいれるんだし」

俺の言葉に言いくるめられたテソナは暫く考えて「そうだな・・・」なんて呟いてる。簡単に掌で転がされる隣の彼に若干の心配を感じながら俺はどんぶりを手に持ってスープを平らげた。ここのラーメンはスープまで美味しいな、と思いながら空になったどんぶりをテーブルに置くのと同時にテソンが「あ、」と言葉を漏らす。

「でも、もしスンヒョニヒョンが『恋人できたんだね良かった!』って言ったら僕はヒョンと付き合ってるってことになるじゃないですか!」

「うん、いいじゃん」

「良くないですよ!」

そう言い切ってテソナもスープまでぺろりと平らげる。本当に気持ちがいい食べっぷりだ。そして気持ちいいくらいにさり気なく振ってくれたな。
ここで「俺にしとけよ」というのはなんだか情けなくて、言いたくなかったからとりあえず笑っといた。














「反対方向なんだから送ってくれなくてもいいのに」


テソナは家の前についてから申し訳なさそうにそう言った。季節は冬だ。夕方でも暗くなる季節で、夜である今は本当に真っ暗。そんな中、こんな可愛い子1人帰らせるわけがない。



「テソナも一応可愛い後輩だからな。」

「一言余計です」


ぶーっと膨れるテソナの頬を笑いながら片手でぶにっとつぶす。そうするとテソナも楽しそうに頬を赤くしてアハハと笑った。


「じゃあな。」

「あ、ヒョン!・・・いつもありがとうございます。」


ふにゃりと笑って礼を言う可愛い可愛い俺の後輩テソナ。肩から少しずり落ちた目玉のリュクサックの肩掛けをしっかり直すテソナにヒラヒラと手を振ってから自分の帰路へつく。




テソナは本当にスンヒョニヒョンにあのことを言うんだろうか。あの様子じゃきっと言わないだろう。

テソナはスンヒョニヒョンの気持ちが分からないと言うけれど、あんなにテソナへの気持ちが溢れている彼の心に気付かないテソナの方がおかしい。

俺とエッチした、なんて言ったらきっと殴り込みにくるんじゃないか。いや、それはないか・・・
いや、あり得るか?

どちらにしろ、それを聞いて嫉妬で狂えばいいんだ。
俺がいつも感じている同じ思いを、彼もするべきだ。

たとえそれがほんの少しの間でも。


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