創作


□夏雪
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 夏休みのある午後、庭から飛び出していった愛犬のまめきちが、知らない女の子を引きずりながら戻ってきた。


「こ、氷を……、雪を…………」


 少女は掠れた声で言った。

 僕はまめきちと一緒に、少女をどうにか冷房の効いたリビングに入れ、寝かせた。

 少女はしばらくぐったりしていたが、次第に落ち着いて、そのうち目を開け、体を起こせるようになった。

 やがて少女は、自分は雪女である、と話し始めた。

 少女は氷室という涼しいところで寝ていたらしいのだが、気がついたら街に連れてこられていたという。訳もわからずじっとしていると、突如人間に運び出され、訳のわからない道具で氷ごと危うく削られそうになった。

 命からがら逃げてきた少女は、しかしその途中でついに暑さに倒れてしまう。それを、まめきちが引きずってきたようだ。


「私、冬に帰りたいの」


 家に帰らなくちゃという言い方をするけれど、少なくとも僕が知っている冬は歩けば辿り着くようなところではない。

 僕は家族には内緒で、少女を自分の部屋で保護することにした。さっきの弱った姿を見てしまった後では、この炎天下に放り出すなんてできなかったからだ。

 少女はそれならと、身を隠すために雪だるまの姿になった。僕は少女の仮の姿であるそれを皿の上に乗せると、部屋の冷房がよく当たるところに置いた。

 それからの夏休みは、この猛暑からいかに小さな雪だるまを守り抜くか、毎日が戦いだった。

 ある日には冷房を付けっぱなしにしていたため、風邪を引いてしまったりもした。熱に浮された夜のこと、額に雪だるまが乗っかってきてくれたのは、きっと夢ではい。

 家族がいないときには少女の姿になって、まめきちと遊んだり、一緒にアイスを食べたりした。普段の食事は氷を持ってくればいいと言っていたが、アイスは気に入ったらしく嬉しそうに食べるから、僕まで嬉しくなった。

 問題は、まもなく夏休みが終わることだった。学校が始まれば、少女をひとりにする時間が増えてしまう。

 何かあったらどうしよう。

 その予感は的中した。

 夏休みが終わったある日、僕の部屋を掃除しようとした母は、付けっぱなしにしていた冷房を「消し忘れた」と思い、電源を切ってしまった。僕が帰った頃には部屋は暑くなっていて、雪だるまの姿もなくなっていた。
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