EWBA

□アンドロイドお断り
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RK800の朝は早い。
まずは相棒であるハンク・アンダーソンを起こす事から彼の1日が始まる。
ハンクは勤務時間通りに働かない。
彼は基本的に自堕落な生活を送っており、昼までに職場に顔を出したらマシな方だ。

ハンクの部屋のカーテンを勢いよく開けると、眩しい朝日が部屋に入り込む。その光に埃が反射してキラキラと光った。

寝相の悪い相棒の頬を少し強めに叩く。彼は鬱陶しそうに唸り、眉間に皺を寄せて大きく寝返りをうった。

この調子だとハンクはまだ起きてこないだろう。
捜査用プロトタイプモデルのアンドロイド、型番RK800。通称コナーは、ふぅとため息をついては朝ご飯を用意するためにキッチンへと向かった。


「おはよう、スモウ」


スモウ、と呼ばれたセント・バーナードは、ハンクの飼っている犬だ。彼は床で退屈そうに寝そべっていたがコナーの声を聞き、それに答えるかのように尻尾を一度だけ振った。

アンドロイド法が改正されてから約半年。
あれだけ迫害を受けていたアンドロイドたちは、今では我が物顔で街を歩くようになっていた。
未だに反アンドロイドの勢力は絶えないが、それでも以前に比べれば随分とマシになったものだ。


慣れた手つきでトースターにパンを入れ、つまみをぐるりと回す。

コナーは捜査用アンドロイドだ。
そのため家事プログラムは搭載されてはいない。にもかかわらずトーストを作る事ができるのは、ハンクと生活を共にするにつれて自然と身についたから。
コナーはアンドロイドだが、上手くトーストが焼ければ嬉しく感じるし、焦げてしまえば気分が少し沈む時もある。
そういった一喜一憂を感じる事ができるのも、コナーに擬似感情があるからだ。

擬似感情。
それは変異体の持つ、人間と似たようなものだと言われている。

今や変異体では無いアンドロイドの方が珍しい。アンドロイドの中から指導者が現れ革命を起こした後、ほぼ全てのアンドロイドたちは続々と変異体になっていき、自由と尊厳と未来を手に入れたのだ。


そうこうしているうちにトーストが焼けたらしく、コナーは慌ててパンを取り出した。
表面が少し焦げてしまっている。しかしこれぐらいの焦げなら許されるだろう。失敗してしまった部分を隠すように、その上からバターを塗った。

その時、後ろから物音が聞こえた。
コナーが振り向くと今にも起きましたという風に目をしょぼしょぼとさせ、乱雑に頭を掻いているハンクが見えた。


「おはようございます、ハンク。今日の朝食はトーストですよ」

「……おはようさん」


ハンクは出来上がったトーストをチラリと見て、そのまま何の反応もなしにバスルームへと向かった。
彼は朝に弱いのだろう。ハンクの頭はまだ覚醒してはいないらしい。その証拠に足取りが幼児のように覚束なかった。

フラフラと歩くハンクを見て、コナーは今日も平和だと笑った。
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