Short Story
□One Day
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『とりあえず今日もお疲れ様、麻衣。だけどいつも言ってるようにちゃんと連絡してくれ。』
「ごめんね、撮影が長引いちゃって連絡してたらその分遅くなっちゃうから急いできちゃった。」
何ともまぁ可愛らしい言い訳を特に恥ずかしげもなく口走る麻衣に俺は呆れを通り越してまぁいいかという感情になった。
それよりもせっかく久しぶりのデートなんだ。
つまらないこと言って麻衣に拗ねられるよりも今の時間を大切にしよう。
今は俺に服をプレゼントしたいという麻衣の希望を叶えるために近くの服屋さんまでやってきた。
本来なら明日誕生日を迎えるのは彼女なのだから俺がプレゼントをしてあげたいところだったのだが自分が自分がとわがまま言う彼女に負けてプレゼントしてもらうことになった。
しかしその買い物が予想の斜め上を行く展開になろうとしていた。
「うーんこれも似合うし・・・でもやっぱりさっきのも・・・あー!もう決められないから全部買っちゃう!」
あろう事か彼女が気に入った服全てを俺にプレゼントすると言い出したのだ。
当然そんなことさせる訳にはいかないので何とか止めようと試みる。
『麻衣、流石に全部はダメだろ。』
「なんで!いいじゃん!私が買ってあげるんだから!」
どうやら今日は譲る気がないらしい。
俺はそんな麻衣を一瞬でその気にさせる魔法の言葉を使うことにした。
『麻衣、俺は麻衣との思い出の1着が欲しいんだけど駄目?』
「う・・・ダメじゃない。それならもう一度真剣に選ぶね!」
1度手に取った服をもう一度俺に当てて真剣に考え出す彼女。
単純といえば聞こえが悪いがそんな彼女をみて微笑ましく思う俺も相当単純なんだろう。
その後も30分近く悩みに悩んだ麻衣はようやく納得のいく1着を選んでプレゼントしてくれた。
その後は少しゆっくりしようということで先程とは違う喫茶店で腰を下ろすことにした。
そしてなぜか席に座ってから麻衣に元気がない。
いや、よくよく考えると今日はいつもに増して笑っている回数が多かった気がする。
いま思うと空元気だったのかもしれない。
(さりげなく話を聞いてみるか)
『麻衣、最近の仕事はどう?』
「・・・仕事は上手くいってると思うんだけどね、たまにくる嫌がらせとかアンチの手紙とかが今日はたまたま一気に届いてね・・・」
なんだそれ、そんなことしてる奴って本当に暇なのか?
そうやって人を傷つけることでしか自分の価値観をあげることしかできないのかよ。
送ったやつからすればたったひとつの手紙かもしれないけどそれが重なると大きな爆弾になることになぜ気づかない。
だけどこんな月並みな言葉を麻衣は求めているわけじゃないんだろう。
俺だからこそ麻衣に伝えられることがあるはずだ。
どう言葉をかけようか考えていたが次の麻衣のセリフを聞いて俺の口は勝手に開いていた。
「わたし・・・頑張ってるんだよね?今までの努力って無駄じゃないんだよね?」
『それ誰に聞いてるんだ?』
「え?そりゃもちろん優希にだけど。」
『だとしたらその質問は俺に対しても麻衣自信に対しても失礼だ。』
意味がわからないというようにハテナを浮かべる麻衣。
あんまりこういうことは恥ずかしいから言いたくないんだが今はちゃんと伝えなくてはいけない気がした。
『麻衣の頑張りを誰よりも1番近いところで見てきた俺に対してそれを言うのは失礼だろって言ってるんだ。どうせそんなヤツらに麻衣の努力なんて分からないんだよ。だけど俺はそんな奴らよりは麻衣の努力を知っている。』
「・・・ほんとうにそう思ってる?」
それでも自信がなさそうにボソボソと麻衣は話す。
なんでこんなことで麻衣が悩んでるんだ。
こんなくだらない奴らのために麻衣の成長のための時間が奪われているのが腹立たしくて仕方ない。
もう二度と麻衣がこんなくだらないことで悩まなくてもいいように俺はまた魔法の言葉をかけることにした。
『当たり前だ。そんなくだらない奴らの言うことより誰よりも麻衣のことを知ってる俺の言うことを信じろよ。』
「それって・・・見ててくれたんだ。」
それは以前麻衣が出演したドラマで麻衣が放った言葉に似た者だった。
『当然だろ。お前の出てる番組は全て見てる。今日のドラマも見た。脇役とはいえ俺には1番輝いて見えたよ。』
そういうと俺は麻衣の頭を優しく撫でた。
そして俺の目に映る麻衣の瞳には先程のまでの迷いの表情はスッパリと消えていた。
どうやら明日は幸せな誕生日を迎えさせてあげることが出来そうだ。
Fin