Short Story

□One Day
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夕方頃、俺は喫茶店の中で1人携帯を弄りながら人を待っていた。

(遅い・・・)

今に始まったことじゃないが俺がここにいる原因の彼女は約束の時間にほぼやってくることは無い。
もちろん彼女が忙しいということもあるがそれを含めたとしても遅い。

ふと携帯の時計表示を確認すると既に約束の時間を30分過ぎていた。
一応店の中をキョロキョロと見渡してみるが当然見当たらない。
別に遅れること自体は構わない、ただひとつ、連絡を入れて欲しいのだ。

連絡がないと仕事が長引いているのか普通に準備が遅れているのか、はたまた厄介事に巻き込まれたんじゃないかと心配になってしまう。

ダメだ、これ以上考えてもキリがない。
俺は再び携帯に目を戻すことにした。

しかし5分程でSNSなどを一通りチェックし終えるといよいよやることがなくなってしまう。
そこで俺はYouTubeを開いてみることにした。
もちろんこんな所で1人のんびり動画を見る気は無い。

というより俺は動画などほとんど見ない。
それはテレビだって同じだ。
自分の家のテレビちは様々なドラマやバラエティが録画されているがそれらのほとんどはドラマの途中の話であったりバラエティの一部を切り抜いた所であったりと統一性がほとんど見られない。

当たり前だがそのドラマやバラエティ自体に興味があるわけではない。
単純にその画面に映って輝いている彼女を見届けるためだけに毎度毎度録画しているのだ。

だからこのYouTubeもインストールしたのはつい一昨日くらいの話だ。
今少しずつ世間の評判を集めだしている女優様は今度はYouTubeにも進出するらしい。
であるならこちらもインストールする以外に手段はない。

俺はYouTubeを開くとまだ1つの動画も投稿されていないのに続々と登録者数が増えている彼女のチャンネルを開いた。
記念すべき最初の動画は彼女の誕生日である明日にあげることになるらしい。

だから今このチャンネルを開いた所で俺にやれる事ははっきり言って1つもないのだが・・・
サムネイルに使われているいきいきとした笑顔を見ただけで少し口元が緩んでしまう。

続けて俺は彼女が使用しているSNSのアカウントを開いた。
これも彼女が「優希が見てくれるならやろうかな。」と言い出したことがきっかけだ。
その割には最初の投稿からかなりノリノリのツイートが多かったようにも見えるが・・・

彼女の投稿をスクロールしていっていると突然視界が真っ暗になった。
停電ではない、それよりもなぜか目の周りに手の感触がする。
もちろん犯人は誰だか分かっている、だからこの次に彼女が言うセリフはもちろん


「だーれだ?」

『・・・さぁ、全然わからん。』

「私がいなくて寂しいからってまだ投稿もしてないYouTubeを見たり、私の写真を見ちゃう優希がだーいすきな女の子。」

『馬鹿なこと言ってないでさっさと手を離せ麻衣。』


なんと俺が待っていた彼女は10分ほど前からここにいて俺のことを見ていたみたいだ。
しかも俺の携帯の画面まで見ていられたするとバチが悪い。
ホントはすぐに驚かすつもりだったのに画面に移る自分を見てニヤけが止まらなくなっていたら時間が過ぎてしまったというところだろう。

振り向くといつも以上に輝いた笑顔でえへへと笑う白石麻衣がそこに立っていた。
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