Short Story

□真夏色のライラック
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真夏が帰った後、気分を変えるためにシャワーを浴びようとしたがシャンプーが切れていたことを思い出す。
別に1日なくても困りはしないのだがどうせそのうち買うことになるのだからと俺はバイクの鍵を手に持った。
ついでだから酒やらつまみやらでも買って今日はテレビでも見ながら夜を明かすことにしよう。

1年以上乗り続けているバイクに股がりエンジンを吹かし俺は夜の街へと飛び出した。
いくら東京とはいえここは少し外れの場所でしかも夜、通行人など1人も見当たらない。
なるべく早めに買い物を済ませてしまいたい俺は更にスピードを上げた。

そしてそのスピードのままとある公園を通り過ぎようとした時何気なしに覗いた公園に信じられないものが写って見えたので俺は思わずブレーキをかけ目を凝らした。
しかしもう一度見たところで見える景色は変わらない。
俺は近くの駐車場にバイクを止めて公園までやってきた。

そしてその中で見たものへ声をかけた。


『何やってるんだよ真夏。』

一方、声をかけられた真夏は見つかっちゃったかと言わんばかりの表情でえへへと笑うと

「実は今日と明日だけホントに泊まる場所がなくてね?どうしようかなって考えてたところなの。」


なんでこんな所にいるのかなんて聞かなくてもわかっていた。
それよりもこいつの嘘を見抜けなかったことが情けなくて仕方がなかった。
部屋を出ていく時のあの表情、もう帰らなければいけないという寂しさの顔ではなかったのだ。


別に間違えた判断をしたとは今でも思っていない。
やはり芸能人のプライバシーなど記者の大好物だ。
安易に泊まらせるなんて判断していいわけがない。

それでもあの時ちゃんと考えずに客観的に見れば追い出すような形で真夏を帰らせた自分を殴ってやりたい衝動に駆られた。
そしてまた俺の口は自然と開いていた。


『後ろに乗せてやる。ついてこい。』

「え?」


今の自分の行動が100点満点なのかと言われると間違いなくそうではない。
それでもこんな夜に行く宛のない女の子を放り出して帰るよりは余程マシだ。
カラオケやネカフェなどという選択肢も当然あるだろうが生憎この辺りにはそれに該当するものがない。
しばらく歩けばあるかもしれないがそこに着くまでに何も起こらないとは限らない。

いま出来る最善の手はやはり真夏を家に連れていくことなんだろう。
おそらく60点くらいはもらえるだろう。
60点もあれば単位がもらえるわけなんだから充分じゃないか。

と、わけの分からない言い訳を自分の中で述べて俺は真夏を家に迎える決団をする。


『今日は特別だ。』

「そっか、ありがとね。」


その笑顔を見て思わず目を逸らし早くついて来いと言ったのは間違いなく照れ隠しだった。

真夏の家の水道が止まったのは夕方頃。
その時間であれば大体の人であれば連絡が着くはず。
家を出る前にほかにも頼ろうと思えば頼れた人がいる中で俺を選んだ。
何となく俺はお互いの気持ちが同じ方向に向いていることには気づいていた。
だけど今は何もしない。
無責任な行動で真夏の未来を奪うわけにはいかない。

真夏を家に招待して一夜を共に過ごしたとしてもそれだけだ。
それ以上のことは起こらない。
でも今はそれでいいんだ。

いつか真夏がこの世界で全てやり抜いたと思えたその時にはこの想いを告げる時が来るのかもしれない。
でもそれまではあくまで俺たちはただの友人だ。


そんなことを考えながら俺は真夏を後ろに乗せ再び夜の街へ駆け出していくのだった。



Fin
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