Short Story
□ハッピーエンドが待っている
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そろそろ洗濯物を干さなければ、そう思って本を閉じて立ち上がるが生憎外は雨、仕方なく今日は室内で乾かすことにした。
どうしても雨の日は憂鬱になってしまう。
この雨の日に優希と再会できたのだけどこの雨の日以降優希に助けられっ放しということを痛感するから。
『ただいま、飛鳥。』
よかった、今日も帰ってきてくれた。
彼の家なんだから当たり前だけどこんな面倒臭い女いつ捨てられたっておかしくない。
だから彼が帰ってくるといった時間が近づくにつれて私に不安が募っていく。
そして彼が帰ってきてくれてほっとするの繰り返し。
いい加減私も嫌気がさしていた。
『どうしたんだ飛鳥、そんな顔して。』
やっぱり優希には分かるんだね。
なんかもう隠し事できる気しないよ。
「別に、ただ雨の日はあの時のこと思い出すから憂鬱なだけ。」
『あの日のことで思い当たる節が多すぎてどの日か分からん。』
そんなことを言ってるけど優希には伝わってるんだろう。
一体いつまで私は彼の足枷になっているんだろう。
このままじゃいけないことはわかってる。
だけど前に進もうとして無理だったら?
前に進んだ結果上手くいって優希との毎日が終わりを告げてしまったら?
どっちにしろそれは私にとって人生が終わるに等しいことを表しているだろう。
だったらこのままでいいなんて思ってしまうこともある。
私がいつまでもダメダメな女でいる限り優希はずっと私のそばにいてくれるんだから。
『だから晴れの日にどこかに一緒に行こう。』
「え?」
だけどそんな旧態依然としていることは彼が許さないらしい。
それは今まで外に出ることを決して強要してこなかった彼から初めて出た言葉だった。
『雨の日が憂鬱になるならそんなこと忘れて晴れの日が楽しみになるくらいの思い出を一緒に作ろう。』
「・・・何言ってるの?」
『俺がちゃんと言葉にしないからお前が毎日不安に思ってることには気づいていた。だからここらでちゃんと俺たちの関係性をはっきりさせておこうと思ってな。』
そういって優希は私から目を離さない。
そしてその目を逸らすことは許さないというくらいはっきりと私を捉えている。
何か言わなきゃ、と思っても私の口は開かない。
やがて優希が先に口を開いた。
『好きだ飛鳥、俺と付き合ってくれ。』
「で、でも・・・私中学の時に勝手にいなくなって、それなのに自分が大変な目にあったらすぐに優希の所に飛びついて・・・」
『あの時のことはもう怒ってない、それにこれは俺が勝手にしたことだ。飛鳥がやったことじゃない。』
「ほ、本当に私でいいの?私なんかと付き合っても・・・」
『だからこれから楽しい思い出を作っていこうって言っただろ?それよりも飛鳥はどうなんだ?』
あの日と同じ言葉を優希はかけてくれた。
それだけでなんだか依存していた自分の心がスーっと溶けていくのを感じる。
きっと大丈夫、これから先もずっと優希は私のそばに居てくれる。
彼の言葉ひとつでここまで考えがガラッと変わる自分に少し呆れながらもなぜかこれから先大丈夫な気がしてならない。
そうだ、明日は優希は休みだって言ってたから一緒に出かけようかな。
鏡でも買いに。
今なら自分の顔を見られる気がする。
いや、優希と一緒ならきっと見られるはずだ。
一歩一歩、前に進んでいこう。
それよりも先にちゃんと返事をしなくっちゃ。
「私も優希のことが好き。」
きっと今は自然に笑えている、そんな気がした。
Fin