Short Story

□ハッピーエンドが待っている
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目が覚めたら私は彼の背におぶられていた。
ここは?と少し考えるもすぐにきっと彼の家なんだろうとわかった。

当たり前だけど私を背負っていたのだから彼も傘などさせるはずもなく私と同じくびしょ濡れだ。
これ以上彼の負担になってはいけない。
優希の肩をトントンと叩くと『気がついたのか。』と言って私を一旦降ろしてくれた。
と言っても既に部屋の前まで来ていたからどっちにしろここで降ろされていたんだろう。

『どうぞ。』

「・・・いいの?」

『いいも悪いもこんな雨の中大女優様を1人帰らせられないだろ。』


大女優様か、そもそも大と付けられるほど大層なものでもない。
それに本日付けで女優の肩書きも失った私にとってその言葉かなり堪える。
それでも1人でいたらきっと更に沈んでいくだけなんだろう。
そう考えて私は大人しく部屋の中に案内される。

『とりあえずすぐにシャワーを浴びろ。風邪ひかれたらたまったもんじゃない。』

言われるがままにシャワー室に放り込まれた私はそこでまた見てしまった。
洗面台の上にある鏡を、そしてそこに映りこんだ二度と見たくない自分の顔を。

バタッと倒れた音に反応した優希が慌てて中に入ってくる。
一応下着姿なんだけどなぁ・・・

『おい、大丈夫か!?・・・鏡が見れないのか?』

震える手で鏡を指さす私を見て何かを察した優希は鏡を閉めた。
それを見て落ち着いた私はゆっくりと息を撫で下ろす。
そしてようやく私が下着姿であることに気がついた優希は

『あっ・・・すまん、』

これまた慌てて外へと出ていった。





_______________


「ごめん先にいただいちゃって。」

『別にいい、俺もシャワー浴びてくるから好きにしてろ。』

部屋を見渡すとおそらく鏡らしきものが後ろを向いていることに気づく。
気を利かせてくれたんだろう。

そしてさっき気絶するように眠ってたくせにまた強烈な睡魔が私を襲ってくる。
せめて彼が出てきてちゃんと話をするまでは起きていたかったがどうやら勝てそうにもない。

大人しくこの睡魔に従うことにした私はソファの上で眠りにつくのだった。



朝、目が覚めると私はベッドの上にいた。
シャワーから出た優希がおそらく運んでくれたんだろう。

『ちょうど起きたか。朝ごはん用意してるしリビングに来てくれ。』

私を起こしに来た優希に連れられて昨日私が勝手に寝てしまったリビングまでやってきた。
泊まらせてもらった上に朝ごはんまで用意してもらって申し訳ないな。
食べたらすぐに出ていかないと。

彼の用意してくれたご飯のいい匂いに少しずつ目が覚めていきつつ何か部屋の様子が昨日と違うことに気づく。

昨日私が起きている時には会ったテレビが部屋から無くなっているのだ。
テレビだけじゃない、昨日はドアのそばに置かれていたはずの鏡も無くなっている。
もしかして・・・私はもし見てしまったらどうしようと不安に思いながらも風呂場へ向かった。

扉を開けるとやはり昨日ははめられていたはずの鏡が無くなっている。

どうして・・・


『お前の事務所に電話して全部聞いた。今日からお前にはここで暮らしてもらう。』

「・・・え?」

『ここなら自分の顔を見なくてもいいし、テレビで自分のニュースやら番組やらを見なくて済む。もう事務所には許可を得たから拒否権はない。』

「何言ってるの?それにテレビとか鏡がないって物凄く不便だと思うんだけど。」

『テレビはほとんど見ないし鏡も飛鳥が髪とかセットしてくれれば問題ない。』

「で、でも・・・」

『周りの声なんて関係ない。お前はどうしたいんだ。』


ズルいよ優希。
大好きな人がここまでしてくれるのにそんなの私が断れるわけないじゃん。

単純な私はこうして簡単に彼に看破されてしまった。


こうして一緒に暮らし始めるとやっぱりこの同棲生活は私にとってかなり条件がいいものだった。
ろくに外に出られない私は買い物にもいけない。
ようするに家の中でできる家事以外は全部優希におんぶに抱っこな状態だったのだ。

それでも彼は嫌な顔ひとつせずほぼ全てのことをこなしてくれる。
せめて料理くらいはと思ったが料理が得意ではない私にはどうすることも出来なかった。
だから私ができることは洗濯物と部屋の掃除、それくらいだった。



そしてこんな生活が既に半年も続き私はもう優希無しでは生きていけないくらいには彼に依存してしまっていた。
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