サヨナラまでの小夜曲

□第7話
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今日で秘書の仕事もおしまい。
そして私は今、今日最後の仕事である残務処理を終えたところだった。
橋本さんは私が作成した資料を難しい目で見ている。
合格と言われるまでのこの時間は1週間経っても緊張してしまう。

「うん、まぁこんなもんかな。1週間よく頑張ったね。」

合格点が出たことでひとまずホッと胸を撫で下ろす。
そしてようやく橋本さんが微笑んでくれているのことに気づいた。
ポカンとしていると怪訝に思った橋本さんがジロっとこちらを見てくる。

「なに?その顔は?」

「いえ・・・橋本さんが笑ったところ初めて見たので。」

「私だって人間だから笑うに決まってるでしょ?」


それもそっか。
あまりに珍しい光景だったので驚いてしまった。
でも橋本さんの人間味を感じられることが出来て少しクスッと笑ってしまう。

だけどすぐに表情を締めると私は早速本題に入る。

「それで、橋本さん・・・」

「分かってる。約束の話しよね。この後空いてる?」

「あ、もちろんです。」

「それじゃあ着いてきて。実際に見た方が分かりやすいだろうから。」


橋本さんは荷物をまとめるとそのまま部屋を出ていく。
私も慌ててその後を追うけど目的地は未だに分からない。
1階まで降りた橋本さんはビルを出ていく。
どうやら行先は外にあるらしい。

外に出ても私たちの間に会話はない。
何だか気軽に話しかけていいような雰囲気じゃなかったからだ。
やがて橋本さんはある場所に到着すると少し身を寄せて隠れるように私を手招きした。


「ここって・・・」

「そう、病院ね。」

「ここがなにか関係が?」

「説明するよりもとりあえず見てもらった方が・・・ちゃうどきたみたいだね。」


橋本さんが指差す方向には先程まで仕事をしていたはずの社長がちょうど中に入って行くところだった。
どこか具合が悪いところでもあるのだろうか。
心配になった私は橋本さんにそう聞くと


「優希が通院してるわけじゃない。ここに優希にとって大切な人がいるの。」

「・・・もしかしてその人が、」

「そう、あなたも名前だけは聞いたんでしょ?西野七瀬。優希は七瀬に会うためにずっとここに通っているの。」


そう言って橋本さんは封印していた1年前の記憶を語り始めた。







そして時を同じくして


『七瀬・・・』

優希が声をかけるが返事はない。
視線の先には毛布にくるまって顔も確認できないでいた。
それでも優希は話し続ける。
最後まで返事はなかったが優希は優しい笑顔だった。

『また来るから・・・ちゃんとご飯食べるんだぞ?』

そう言って病室をあとにする。

そして部屋のそばで立ち止まると優希も奈々未と同じく1年前のことを思い出していた。
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