サヨナラまでの小夜曲

□第2話
1ページ/4ページ

『会社のことを知るためには色々な方法があるが・・・1番の方法は実際に現場を見てみること。これか1番だと私は思ってる。今まで何度かインターン募集はしてきたが、一度も参加したことがない人は出ていってくれ。』


その言葉と同時に私は立ち上がる。
周りを見ると残ってる人数の半分近くの人が席を立っていた。
北野さんは秘書らしき人を呼ぶとヒソヒソと話をしていたけどもう私には関係ない。

人前だけでは涙を流さないように、私は早歩きで会場を出た。


「あーあ、これからどうしようかな。」

会場を出たがみんなと同じエレベーターに乗る気にはなれず、私は8階から1階までゆっくりと階段を使って降りることにした。

そして問題なのはこれからどうするかだ。
ここしか考えてなかった私は他の企業には一切の興味も示さずここまで突き進んできた。
今から新しい企業を見つけたとして全力で就活に取り組めるだろうか。

そもそもこの時期にエントリー募集してる企業なんて多くはないはず・・・

「就職浪人は嫌だな・・・」


自分のみすぼらしい格好を見て呟く。
ただでさえ家計が苦しいのに、これからしばらくはバイトで食いつないでいかなければならない。
こんなこととてもじゃないけど親に話せない。

就職してお金稼いではやくお父さんとお母さんに楽をさせてあげたい。
高校生の頃はそんなことしか考えてなかった。

もう少し現実的に考えておくべきだったのかもしれない。
でもそれじゃあ1番最初の段階で会場から追い出されていたのか・・・

いくら考えても何が正しかったのか分からない。
だけど私の中ではまだToile blancheへの想いは捨てきれないでいた。


1階まで降りた私は少し小腹が空いていることに気づく。
さっきのカフェでご飯を食べようか。
そう思ったけど今あの店員さんに会っちゃうのは気まずいし・・・


コンビニでおにぎりでも買って済ませちゃおう。
その後とりあえず実家に帰ってお父さんとお母さんに話を・・・

これからの事を具体的に考え始めた時だった。


「ちょっと待って!」

女性の声がして振り向くと見覚えのある女性が私の後ろに立っていた。
いつ見たのか・・・少し考えて私は思い出す。
この人、確かさっき北野さんに呼ばれてた人だ。

そんな人が私になんの用だろう。

「小林由依さん・・・であってる?」

「あ、はい。」

「よかった。今日昼から何か予定は?」

「いえ・・・私は御社だけの志望だったので特には・・・」

「それならよかった。じゃあ2時間後にこのビルの3階にあるオフィスに来て欲しいの。受け付けの人に言ってもらえれば話は通しておくから。」

彼女は私の驚きに合わせることなくポンポンと話を進めていく。
私がようやく冷静になって「なぜですか?」と聞こうとした頃には彼女は手を振ってエレベーターに向かった後だった。

また2時間後に来るのか。
それにしても話ってなんだったんだろう。
今更落ちた私を呼び出してまでするような話ってあるのかな。

もしかしてさっきの説明会中の態度があんまり良くなかったとか。
それだったら申し訳ないなぁ。


色々思う所はあったがとりあえず空腹を満たしたくなった私は近くのコンビニへと向かうのだった。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ