Short Story
□ちょっとタイプの常連さん
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いつも通り店の裏に回って駐輪場に向かう。
こうやって桜井さんを後ろに乗せてバイクを運転するのにも慣れたものだ。
『はい、これどうぞ。』
「いつもありがとうね。」
『いえ、帰り道なので全然大丈夫ですよ。』
ヘルメットを彼女に渡して俺も運転の準備に入る。
当然このヘルメットも俺の自腹。
彼女と一緒にドライブできるなら痛くもない出費だ。
『じゃ、行きますね。ちゃんと捕まってて。』
「はーい!」
元気よく返事をして俺のお腹に手を回す彼女を後ろに俺は微笑むとエンジンをかけて彼女の家に向かうべく走り出した。
走り出して少し経つと彼女が俺のお腹をグーで二度叩く。
もっとはやく走って。
それが彼女からの合図だ。
彼女はスピードを出すのをすごく好む。
正直な所女の子を後ろに乗せている俺からすればあまり危ない真似をしたくないのが本音だ。
だけど今日は気分がよかった俺は信号待ちの間に周りを確認する。
俺たち以外に人はいなかった。
信号2つ分だけ。
自分のなかでそう決めると俺は思い切りスピードを出した。
「ありがとうね!久しぶりにスピード出してくれたじゃん!」
『気が向いただけです。』
桜井さんの住むマンションの前で俺たちは少しだけ話をしていた。
今日も無事、彼女を送り届けられたので一安心だ。
それじゃあこれで。
今日もそう言って帰る予定だった。
だけど今日は違ったらしい。
「優希君!少しだけ寄っていかない?いつも送ってもらってるからお茶だけでもご馳走したいなって。」
さて、どうしたものか。
俺はいま気になっている彼女から家に来ないかとの誘いを受けている。
俺はすぐに時間を確認する。
もう夜は遅い、しかも明日ははやいから本来なら帰らなければならない。
だけど目の前で気になる異性からのお誘い。
俺は悩むふりだけはしたものの全く迷うことなくお邪魔させてもらうことにした。
『お邪魔しまーす。』
恐る恐る彼女の部屋に入る。
意外と言うと失礼かもしれないが彼女の部屋は綺麗に整理整頓されていた。
「はい!お茶だよ!」
『ありがとうございます。いただきます。』
彼女がいれてくれたお茶を1口啜る。
外は少しだけ風が吹いて寒かったので温かいお茶が身体中に染みてくる。
それから30分ほどお喋りをした俺たちだったがいい加減帰らないと明日が流石に心配だったので名残惜しいが帰ることにした。
『ありがとうございました。また機会があったらお邪魔させてください。』
「う、うん!あのね?優希君。」
俺は挨拶をして背を向けようとしたがどうやら彼女はまだ用があるらしい。
しかもなぜかモジモジしている。
俺は一体どうしたのかと不思議に思っていると
「わたし今日誕生日なの!だからプレゼントが欲しい!」
『え・・・』
しまった。
彼女の誕生日がいつだったかは把握してなかった。
プレゼントが欲しいと言われても何も用意できるものがない。
『すみません、今日誕生日とは知らなくて・・・今なにもプレゼント出来るものがないんです。』
「ううん、物が欲しいんじゃないの。私、優希君の他の子よりも少しだけいいから特別な存在になりたい。ダメ?」
自信なさげにそう呟く彼女。
そんな彼女をみて焦っていた俺の心は直ぐに晴れやかになってくる。
女の子に先に告白させたことには後悔が残るが勇気をだして言ってくれたんだ。
俺もちゃんと応えなくては。
『ダメです。』
「え?」
俺が声を発した途端に泣きそうになる彼女。
ちょっとだけ待って欲しい。
まだ話は終わってないんだから。
俺はすぐに微笑むと続きを話す。
『少しだけじゃだめです。俺にとって何よりも特別な存在になって欲しい・・・これじゃダメですか?』
「だ、ダメじゃない。」
『よかった。俺からの誕生日プレゼントです。』
そう言って俺は彼女の唇に優しく口付けた。
Fin