小説

□登校一日目
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いつもの4人で揃って下駄箱を出る、すると何やらテニスコートの方が騒がしい、時々歓声が上がり、早く行こう!と目の前を女子生徒何人かが目を輝かせながらそちらの方へ走っていく。

「あっちの方騒がしいね、何かあったのかな?」

「あー、何か引退した3年生が部活に顔だしてるみたいだよ。」

「なるほどね、さっきの子達は元レギュラー目当てか。」

「まぁ、今までは自分の部活があるから中々見に行けなかったしね。私も可愛い切原君を見に行きたい。」

そうテニスコートの方を見ながら言う。

「名無しと行ってきたら?うちらはテニス部よりサッカー部の太田君派だから、そっちを見に行ってくるわ」

相変わらずの切原愛に笑いながらそう言って二人は運動場の方へ行った。

「だってさー、一緒に行ってくれるでしょ名無し?」

肩を組みながら甘えるように尋ねてくる。

「いいよー、テニス部でもサッカー部でもどっちでもいいし」

「どっちでもいいって……いつからそんなに小悪魔な子に育っちゃったのかしら……」

「ちっがーう!そういう意味じゃないって、もー」

怒ったポーズをとると、分かってるって、とへらへらと笑う。そんなやり取りをしながら歩いていった。



しばらくすると、突然鋭い悪寒が走る、背中に氷を流されたような感じがし、周りの音が遠のく、近くの女子達の黄色い声や、練習に励む音が消え世界に取り残される、反対に耳鳴りがどんどん大きくなり、自分の速まった鼓動が脳に響く。
覚えがある体の感覚に息が上がり、必死に原因の姿を探す。




……いた。


朝と変わらぬ姿と動きでやつはそこにいた。

ただひとつ、名無しには救いのように変わってるところがひとつだけあった。

奴はこっちを向いていなかった。周りの生徒と同じように、フェンスの前でテニスコートを見て手をそちらへ向けて振っていた。



「名無し大丈夫?」

様子のおかしくなった名無しを心配して声をかけてくる。

「……だい……じょうぶだよ……」

「大丈夫じゃないでしょ!もう帰ろう、送っていく。」

名無しの返事を待たないで手を引き歩き出す。

「あっ、でも切原くん見たいって……私は1人で帰れるから……」

「切原くんはいつでも見れるから!今は名無し優先に決まってるでしょ、それに……ごめんね、集会の時も具合悪そうにしてたのに……すぐに帰ればよかったね……」

無言の時が流れる、テニスコートから離れて行くにつれ悪寒もましになっていく。




鼓動が平常時と同じに戻ってきた頃に口を開く。

「最近……夏休みの宿題が終わんなくて夜更かしばっかりだったからかな」

実際はそんな事はないが軽く笑いながら嘘を吐く。

「あんた、夏休みに遊んだときは順調だよ、もうすぐ終わるって言ってなかった?」

しょーがないんだからー、と笑う。

「ねえおんぶしてよ、歩きたくないー」

「ちょっ!歩きづらいから寄っ掛からんで!」

自業自得なんだから自分で歩きなさい!そう言いつつ変わらず手を引いていてくれる。



(そういえば……誰に手を振ってたんだろう……)

思い返す、自分以外にターゲットが居たことを

(よかったといえばよかったけど……)

もしかしたら明日の朝は私の代わりに誰かがあれに会ってくれるのだと思うとホッとする。

「ねえ、話し聞いてんのー?」

「あっごめんごめん、何?」



(ごめんね……)

逃げたこと、もしくは未来で自分の代わりなってくれることに伝わるはずもないのに心の中で謝る。



今はただ友達の手を強く握り返し、日常を噛みしめた。
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