小説

□登校二日目
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昨日の夜、名無しはどうして急に幽霊が見えるようになったのか考えていた。……いや急にではなかった。それらしい怪奇現象に出くわしたことはあった。とはいっても、二階の窓を外からコンコンと叩くような音が聞こえたり、イヤホンを着けて音楽を聞いていたら、耳元で「ねぇ」と声がしたくらいでどれも勘違い、気のせいだろうといえる範囲のものだった。しかし、それらの現象も夏休みのある出来事の前には無かった。





(あの日起こったこと、今日の出来事と関係しているのかな……)





それは学校の皆で応援しに行った男子テニス部の全国大会決勝が終わって暫く経った日のことだった。


友達と遊び、夜遅くなってしまった帰り道、ちょうど踏切が降りてきてしまい開くのを待っていた。何人かの男の人の声が聞こえ自分の後ろで立ち止まる。



「今日は皆で集まれて本当によかった。」

「あぁ、なんだか少しすっきりしたな。」

「こういう言い方は悪いかもしれないけど、実際に闘ったレギュラーメンバーだけにしか分からない想いとかあるだろ?そういうのを吐き出せてよかった。」

「そうですね。学校の皆さんが気を使ってくださっていて、大会の事は話題に出さないようにしているようなので……中々話しづらいですし……」






名無しは、同じクラスである柳生に似ている声と話に出てくる単語から後ろに居るのが自分の学校のテニス部レギュラーであるかもしれないと推測する。

(大会……レギュラー……?この時期でしかもここら辺の人ということは、うちの学校のテニス部かな……、それに多分柳生君?みたいな声も聞こえてくるし……あっ、これ絶対聞いてちゃいけない話しだよね!?)

私服でしかもあまり関わりの無い人だから、前にいる女子が同じ学校の人だと彼らは気づかないだろうと思いつつも気づかれないか不安になり縮こまる。

(タイミングが悪いなぁ……あっやっと電車が来た)


ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン………


踏切が上がりさっさとお家に帰ろうと足を一歩踏み出した瞬間

「走ってください!!!」

後ろから走ってきた誰かに手を引っ張られる。突然のことに思考が追いつかないが転ばないように自分も走り出し慌てて前を確認する。

「や、柳生君!?」

「絶対に振り向かないで!!」

他のメンバー達も走ってくる、皆一様に顔は蒼白に、唇を震わせ、恐怖に瞳孔は開いている。ただならぬ皆の様子に名無しにも恐れが伝染する。皆にこんな表情をさせている後ろにある「何か」を確認したい、自分に何が迫っているのか、正体の見えていないあやふやな「何か」をはっきりさせるために(頭の片隅にわからないままの方がいいとガンガンと警鐘が鳴り響く)名無しは柳生の警告を無視し走り出しながら後ろを振り返る。




そこにいたのは人のようなものであった。青白い肌に飛び出そうな眼球、溺死体のようにパンパンに膨らんだ体、所々蝋化し、手や足の爪は変色しひび割れ剥がれている。



吐き気が込み上げ、咄嗟に繋がっていない方の手で口を塞ぐ。足が止まってしまいそうになったが、柳生が手を強く握り離さないでいてくれたため、何とかその場を走り去る。


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