夢追う君に、手を伸ばし U

□記憶の補填
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神野から一夜明け。

新幹線のテロップはヒーロー協会、雄英ヒーロー科、トップヒーロー、を主語として繰り返す異常事態。

それくらい昨日の出来事は歴史に残る大事件だったってことなのだろう。


そう思うと今朝はこんな風に外を普通に歩けることさえ不思議な気がした。


交通規制も所々行っていたけれど、わたしの目的地までのルートにはほとんど影響はない。時間通りに待ち合わせ場所につく。

でもそこに見知った人影はなく確認しようと携帯を取れば、ちょうどバイブが手を震えさせた。


「もしもし?お母さん?」

「ごめんなさい、美恵、愚痴っていい?」

「…どうぞ。」


正直この愚痴の内容もだいたい予想はついていた。


「どうして有給取ったのに、日本に着いた途端仕事が舞い込むの?」

「それが日本国ですね。」

「ブラックね。」


さすがとしか言いようがない発音に思わず苦笑が溢れる。


「まあお母さんくらいの凄腕の人が来てるってわかったら、こういう緊急事態に飛びつきたくなるのは無理ないよ…って今も仕事中じゃないの?」

「執刀権限は別の人にあるから、術前と術後の検査しか仕事させてもらえない。今はその間の休憩時間。人の休暇奪うくらいならどうして責任者くらい任せてくれないの?」

「それが日本国ですね。」

「フレキシブルさに欠けてる。」


うん、お母さんと話すだけで英会話の勉強をできることが発覚した。今度のリスニングテスト前にはお母さんに電話する、ありかもしれない。


「じゃあ今回は会えないね。」

「本当に一緒に行けなくてごめん。」

「謝らなくていいよ。お母さんの仕事はこういう緊急事態に弱いんだから。」

「相変わらず物分かりがよくて助かってる。」



その言葉につい苦笑いが溢れる。

相変わらずじゃない、ちょっと前まで文句たらたらだった。

でも今は前とは違う。

きっと夏前に、授業参観の前に、空港まで背中を押してくれたヒーローのおかげだ。



「で、美恵。オールマイトさっき診たけど、ずっと前からあの状態だったことわかってた?」

「知ってたよ、まったくこんなわたしは医者の娘の風上にもおけないよね。」

「こんな機密は医療界重鎮でもバラせないからその選択は合ってた。秘密隠蔽お疲れ様。」

「どうもありがとう。でも隠蔽って言い方なんかやだな、悪いこと隠してたみたいじゃん。」


そんな軽い会話を交えながら、昨夜のことを思い返す。
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