夢追う君に、手を伸ばし U
□止めることは叶わない
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「エンデヴァーさん、いってらっしゃーい。」
「エンデヴァーさん、気をつけてー。」
笑って茶化して、語尾を必死に伸ばして。
どうしてだろう。
どんなに強いヒーローだって言い聞かせても、仕事へ向かうヒーローの背中が怖く思えるようになってしまったのは。
ってこんなことを考えてる暇はないぞ、自分。
今頭を働かせるべきことは焦凍君を止めることでしょ。
ふと窓から見えるカレンダーに目が向く。明るすぎるひまわり畑の写真が目に痛い。
本当だったら、今日はまだ林間合宿の最中だったはずだ。
ヒーロー科はどんなことやってるだろう、どこで修行してるんだろう、そんなことを考えながら外に出て涼む日常になってたはずなのに。
どうしてこうなってしまったのか。
非日常へ進んでしまうルートはどうしても切り抜けられない。
これからのことを想像して、心がざわついて悲しくなっていくのは止められない。
ガチャ。
裏口のドアノブが回る。
予想通りだけれど思わず唾を飲み込んでしまう。
一本しかない通路で待ち伏せしていれば来ることはわかっていた。
「こんな時間にどこ行くの?」
焦凍君は、こちらに気づいてそしてすぐ目をそらしながら答える。
「すぐ帰っ」
「この夏休み、八百万さんと一緒に発信機の作り方を学んだの。」
相手がありきたりな嘘をつく前にこっちから先手を打つ。
わたしの部屋から一番遠い轟邸の裏口。
そこを選択した時点でわたしが勘付いてることは気づいてたくせに。
「最新の防水加工から超小型化までやって、先生にも褒められちゃった。デバイスはあとから作ればいいから使いやすいねって。」
自分の弱点に真摯に向き合っていた八百万さんが、今回重傷を負ったとはいえ何もしてないとは考えられなかった。
「敵に発信機をつけた八百万さんにデバイス作ってもらえれば、ヒーローの卵でも敵連合のアジトに乗り込めるんだろうな〜なんてわたしの考えすぎだったら良かったんだけどね。」
「……美恵」
何を言っても、皮肉な言い方にしかならない。だからもう率直に言おう。
「焦凍君、行くのやめて。」