夢追う君に、手を伸ばし U

□お見舞い
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side伍代美恵


平和なんて長く続かない。

その事実を思い知るのを繰り返して、わたしはそのたびに臆病になる。

誰かの背中を押すことさえ躊躇してしまうくらいに。





林間合宿3日目、深夜にかかってきた一本の電話。

ヒーロー殺しの時みたいに、震える時間もなく状況が読み込めたのは相澤先生がわたしに気を遣って安否から話してくれたからかもしれない。



「冬美さん、わたしも迎え行ってもいいですか?」

「えっ、でも…美恵ちゃんは…」

「一昨日焦凍君がぽろりとこぼしちゃったみたいでクラスメイトにはバレてますし、多分平気です。」


そう言って困惑してる冬美さんの車の助手席に乗り込んだ。

何人かの保護者もいて、その中で一人わたしは浮いていただろうけれど、そんなのはどうだっていい。


「3日目の夜、一部生徒を除いてA組15名、B組19名でプロヒーロー監督のもと、肝試しを行っていたところ、敵連合が乱入。迅速な非難を呼びかけましたが、敵は毒煙を巻き…」


ブラドキング先生が丁寧に説明してくれる。

敵連合がどうして攻めてきたの?学校側の対策は万全だったはずでしょ?どこから情報が漏れたの?

その答えはどこを聞いいてもでてこない。

でも他の親たちが血が出るんじゃないかってくらい唇を噛み締めていて、わたしの何倍もその気持ちを持っているんだとしたら何も言えなかった。


それに加えて、爆豪君の安否不明。

連れ去られたってことは、敵も生かすつもりである可能性が高いはずだ。

彼が無茶してなきゃいい、敵が逆上してなきゃいい。

わたしのその思考はどこまでも”だったらいい”でしかならない。






身体検査が一通り終わったヒーロー科のみんなが扉を開けて中に入ってくる。

それぞれ家族が取り囲んで、わたしも同じように駆け寄った。

彼も無表情でこちらに近づいた。


「お疲れ様、大変だったわね。」


軽く焦凍君の頭を撫でていつも通りに言葉を発する冬美さんを見て、わたしもこわばった顔を元に戻す。


「お疲れ。」

「…来てたのか。」

「誰かさんがバラしちゃったからね。堂々と来れたよ。」

「わりい。」

「無事だったから水に流してあげるわ。」


それにこうやって家で帰りを待たずに済んだんだもの。


一晩中戦ったのか、疲労がわたしの目を使うでもなく見えた。

彼のカバンを無理やり持つ、絶対荷物持ちをさせてくれないはずのそれは今回はするりと離された。


「帰ろうよ。焦凍君」

「…ああ。」







静かな帰り道に、彼が一言だけ言葉を発した。


「助けられなかった。」


泣いてない、はずなのに。

どこまでも悔しさで自分を追い詰める彼は今にもボロボロと涙を流すんじゃないのかと心配になる。


いや、むしろそうしてくれた方が良かったのかもしれない。

きっかけもなく強がる彼に寄り添うなんて図々しく思えて、その図々しさも臆病すぎた自分には手にできなかった。
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