夢追う君に、手を伸ばし U
□神様の試練
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「美恵」
「あ…もしかして聞こえちゃった?」
廊下を曲がったすぐ先で柱に寄りかかる焦凍君はちょっと気まずそうな顔をしてる。
「姉さんは皿洗ってるから、聞いてねえはずだ。」
ということは弟君はナチュラルに聞いていたと…。
やれやれこっちもこっちで事情聴取がはじまりそうな気配だ。
「電話の塚内って確か刑事だったよな。」
「さっきの事情聴取、同僚がいきなり訪ねてすみませんって」
「事情聴取?聞き込みじゃねえのか。」
「聞いてたらわかるでしょ?…なーんて」
「…隣の部屋からじゃ聞こえなかった。」
「………。」
顔が固まった気がする。冗談だったのに。事情聴取でも聞き耳立ててたんかい。
でもここまで知りたがってるなら、教えないのも酷かな。
「林間合宿で長電話しちゃったからそのことについて、ね。」
「なんでお前に?」
これは焦凍君に言っちゃっていいのかわからない。だから内緒にしてねと前置きしてから話す。
「保護者にも知らされてない合宿所に敵連合が来た。ってことは雄英側には敵連合に場所を知らせる内通者がいるって推測立てられるでしょ。」
「それって…」
「まあそういうこと、だと思う。」
あえて言葉を濁す。多分これだけでも伝わってるよね。
わたしが内通者、かもしれないって。
「なんで…関係ねえ美恵が疑われてるんだよ!」
「ちょっと静かに…。冬美さんに聞こえる。」
「警察も馬鹿な考えしやがって…」
あまりの苦しげな剣幕に圧倒される。本当にいつも冷静な人が狂うとこっちが困るなあ…。
「まあ落ち着いてって。そんな馬鹿な考えでもないんだよ。今のわたしの知識なら一昔前の逆探知の道具は簡単に作れるし、逆探知に必要な時間も…長電話だったからね。奇跡的に条件を満たしちゃってたってこと。」
偶然ばかりだ、ほんと自分のタイミングの悪さを恨む。これもう天性と呼べるべきものじゃないか?
「あの事件に巻き込まれた人全員容疑者にされてるっぽいから、1Aもだよ?焦凍君と同じ立ち位置だって。気にする必要もないでしょ?」
「俺が…」
「え?」
「俺が余計なこと言ったからだろ。長電話になったのは。」
あ…誰を責めるつもりもなかった。だって長電話になったのは、誰も悪いわけじゃない。
文句をつけるとしたら、こんなややこしい疑惑を作り出した内通者本人さんのだけなのに。
「そんなこと悔いるよりも、緑谷君たちに説明させたことを猛省しなさいな。」
軽い口調でなんとかこの悪い雰囲気をぬぐおうとするけれど、できなかった。
「美恵」
唇を痛いほどに噛み締めてる焦凍君には茶化しもなにも通用しない。
この顔はずっと前に見たことがあった。
「もう学校で俺に近づくな。」
ほら、あの時の。小さいころの自分の声が頭の中でささやいた。