夢追う君に、手を伸ばし U
□記憶の補填
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「バカだよね…自分の性格が面倒臭いことは認めるけど、敵に成り下がるほど落ちぶれてないことくらいわかってたのに。」
不機嫌にさせるのはわかってても、エンデヴァーさんが外にでる時にはわたしも玄関に出てきちゃったり。
林間合宿の朝もお節介に出て行って。
昨日だって止まらないと知っていたのに、焦凍君が神野へ行くのを知らないふりをする選択肢はわたしにはなかった。
記憶がなくても、これまでの生活が証明してくれている。
わたしは極悪敵じゃない。
自分に自信を持て。自分を信じろ、伍代美恵。
わたしは絶対お父さんを見送っていた。
「そういえばさ。」
自分の胸から棘が消えていく感覚を味わいながら、ふと思ったことを口にする。
「お父さんが見送りお願いしてた理由って日常をかみしめたい、っていうより帰る場所を再認識したかった、であってるかな?」
わたしはヒーローになれないから見送りしてほしいヒーローが何を考えているかなんて予測することしかできない。
それがすべてじゃなくても間違いではないはずだ。
焦凍君がわざわざ家に寄った理由もきっとそう、戦場に出る前に自分の居場所を再確認するため。
恥ずかしいけれど、その場所に自分も入っていたのは嬉しい。
ヒーローは自己犠牲に走りがちだから、必ず命綱をどこかに繋げていかなきゃいけない。
帰ってこなきゃと思わせなきゃいけない。
待っててくれる人がいると感じさせなきゃいけない。
わたしは昨日それになれてた。
「これからも待つだけでいいのかもしれない。」
きっと今までのヒーローもこれから会うヒーローも、一般市民は待ってるだけで十分だって言ってくれるだろう…でも。
「でも、わたしはそんなで収まる気はないよ。お父さんの娘だから。」
墓石にそっと触れる。真夏でもひんやりと冷たさを感じた。
「ちゃんと手を伸ばして届く位置にわたしはいたい。」
そうやって彼の背中を押してあげられるように…。
いろんなヒーローの背中を押してきたお父さんの血縁だから、わたしもいつかそういう存在になりたい。
「そのためにもこれからも共犯者になり続けるつもり…って結構堂々とした犯罪者宣言だったかな?内緒にしてね。」
また内緒にしてって言っちゃった。いつもそうだ。
毎回お父さんを秘密のはけ口のようにしてるし、授業参観のプリントというその一端を説明すれば焦凍君に呆れられたな。
他の人からもため息つかれるだろう、ご先祖様が文句こぼすよって、でもお父さんなら…
『了解、美恵。他言無用は得意だから。』
お父さんならそう言って笑ってくれると思うから。
「じゃあ、またね。」
次は冬休みかな?4ヶ月は遠いようで意外と短い。
次会うときまでに、少しでもお父さんとの時間を思い出せますように。