夢追う君に、手を伸ばし U
□記憶の補填
5ページ/8ページ
ほどよい坂道を抜けて、ついたのはお父さんのお墓。
掃除はいつも必要ないくらいに綺麗だ。
エンデヴァーさんのサイドキックの人たちが定期的に来てくれているからそれに甘えてしまっている。
またお礼にお菓子か何か送らなくては。
「お父さん、久しぶり。」
線香の煙が鼻をつんと刺激させる。
「昨日の激闘上から見てたかな?あの場所に焦凍君見送っちゃったよ。やばいよね。わたしも学校で処罰対象になるかも。相澤先生、イレイザーヘッドってわかる?その人めちゃくちゃ除籍する先生でさ。」
いつもこんな風に声に出すわけじゃない。
でも周りに人のいない今日なら、それが許される気がした。
「前にも言ったと思うけど、わたしはお父さんの最期を覚えてないんだ…」
いきなり重い話ぶっこんでごめんね、お父さん。
でも今まで素直にならなかったから、その反動だと思ってね。
もう7年も前になるんだ。
敵に敗れたお父さんの姿は悲惨極めるものだったそうだ、人が正気でいられなくなるくらい。
だから、その真横の血の海で倒れていた、その現場を見てしまった7歳のわたしがショックで数日分の記憶を失うのも無理はないと診断された。
なんらかのきっかけですぐ思い出す可能性もあるとも言われた。
でもわたしはその話を聞いた瞬間違うと思った。日常を繰り返すだけで思い出すほど、簡単なものでない気がしていた。
根拠のない勘だ。それでもわたしは別の理由を探した。どこまでも臆病にその理由を探していた。
「忘れた理由は…お父さんに最悪な見送りをした後悔からとか。とんでもない喧嘩別れだったとか。どれが正解なんだろ?どれも正解じゃないかもしれないのに。」
いろんな憶測が自分の中にあった。
想像力には自信あるから、たくさんいろんなエピソードを作って。
それが前に進もうとする自分を蝕んでいて枷や棘になっていった。
“見送りできない”のもその一種だったんだろうな。
そうやって障害物を増やして、考えないほうがいいのに、お父さんが亡くなったのをどんどん自分のせいにしていった。
でもその棘が全部本物なら、その記憶のない数日分の自分はとんでもなく悪いやつだ。
普通の生活も無理なそこらの敵に劣らないほどの極悪人。
そんなのおかしいのに、その矛盾に気づかないまま卑屈になってしまっていた理由は一つ。
「もし記憶が戻っても、今度は耐えられるように保険をかけていたんだんだと思う。」
いろんな最悪を想像してればどんな悪い記憶だろうと、今度は受け入れられる。
少しずつ自分に針を刺して痛みに慣らせていれば、その最悪を信じていれば、きっかけさえ見つかった時今度は記憶を取り戻せるはずだって。