★本編★

□虎白の思い
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〜虎白の思い〜




″…それしか、覚えてない″


俺は結局あの後、ただただ虎白を抱きしめてやることしかできなかった。
その後は医師に任せ、色々と診察をしてもらった。
虎白は8年も眠っていたにもかかわらず、力の衰えはないらしかったし、
体調面でも基本的に問題がなかったので次の日には退院することになった。


【そっか、やっと目が覚めたんだね……】

「はい、体調面は問題ないようなので、明日には退院できるとの事です」

【うん、それで虎白君は君が?】

「……はい、それが彼らとの約束です。それに、俺はもう虎白に辛い思いをしてほしくない……俺が守らなければ、あいつはまだ弱い」

【そうだね……精神面に関してはまだ不安があるところさ、任せるよ、落ち着いたら一度雄英に連れてきなよ!改めて紹介しよう!】

「はい、では失礼します」


電話を切って診察が終わったであろう虎白の部屋へと戻る。
扉を開けた瞬間トンっと腰あたりに軽い衝撃が来た、虎白が抱き着いてきたのだ。


「どうした?」

『……かえっちゃう?』


きゅるきゅるとした瞳で見つめられ、
相澤はポリポリと頬を掻きながら困ったように言った。


「さすがに泊まれないぞ、ギリギリまで居てやるし、明日も朝一で迎えに来る、我慢できるか?」


あまり、今の状況で虎白を一人にしたくなかった。
しかし相澤の心配を他所に虎白はコクっと頷き、両手をグイッと伸ばしてきた。
特に何も言わずに、手だけを伸ばしてくる虎白のその行動に、ふと昔のことを思い出した相澤はそのまま虎白を抱き上げ腕に閉じ込めたのだった。


★ ★ ★


次の日の朝一に虎白は退院をした。
退院したその日のうちに、虎白は雄英高校のある一室に連れてこられていた。


「……おい」

『わぁ!?』


キョロキョロとあたりを見回し部屋中をウロウロとしていた虎白に痺れを切らした相澤は、虎白を抱え上げると膝の上に座らせた。


「少し大人しくしてろ、もう少しで来る」

『……?』


するとドタドタと廊下から誰かが走ってくる音が聞こえ、
その後ろに何人かが歩いてくる音が虎白の耳に入ってくる。


『……だれかくる』


いつの間にやらぴょこりと生えていたライオンの耳をピコピコと動かしながら警戒したように相澤にしがみつき、入り口を見て威嚇をする虎白。


「(尻尾巻いてんじゃねぇか……)」


そんな虎白に笑いそうになりながらも必死に威嚇している虎白を落ち着かせるように背中を撫でてやる。


「イレイザー!!虎白は!?」


突如として勢いよく扉が開きマイクが叫びながら入ってきた
虎白はビクリと肩を揺らし相澤におもいっきりしがみついた。


「……うるせぇぞマイク、虎白がビビってんだろうが」

「あ、わ……、わりぃ」


マイクが部屋に入ると
その後ろからミッドナイト、リカバリーガール、オールマイト、根津が入ってきた。


「またせて悪かったね!」

『……!』


虎白の耳に聞いたことのある声が入ってきた
チラリと声がした方を見て、視界に根津を捉えたとたん、虎白の頭にふわっと映像が流れ始めた。


『あっ……あ……っ!』

「虎白?」


急にボロボロと泣きだし、
根津達に手を伸ばす虎白。
そんな虎白を見た根津は虎白の近くによって微笑んだ。


「虎白君、おかえり」

『……うぅ……っ、ふぇえ』


虎白の中に流れ込んできたのは抜けてしまっていた記憶の一部であった。


『ねずさんっ……まいく、みっど……ないとっ……!りかばりっ、がーる、……おーる……まいとぉ……!』


一つ一つ指を折って名前を呼んでいく虎白、
相澤の膝からぴょこんと降り立ち、
根津をぎゅっと抱きしめた。
そんな様子をみんなが懐かしそうに目を細めて見守っていた。


「やはり、彼らは凄い人達だったな、相澤君」


いつの間にやら相澤のそばに寄ってきていたオールマイトは虎白を見ながらポツリと呟いた
相澤もまた、虎白を見ながら静かに口を開く


「時の眠り……一部の記憶をも眠らせ、関わりのあった、特定の人物を見れば記憶が戻る……あの方達の個性は本当に凄いものだった」


★ ★ ★


「さて、虎白君、これからのことなんだけど、君には夢はあるかい?」


反対側のソファに腰を下ろした根津は虎白をみてそう問いかける。
部屋にいる一同は皆、虎白を見つめ静かに言葉を発するのを待った。


『あるよ!……ぼくは、こまってる人をたすけたい!くるしい思いをしないように、笑ってすごしてほしい、だから、ぼくがてっぺんに立ってみんなをみちびいてあげるんだ!』


人差し指をてっぺんに向けて手を伸ばす虎白、
その姿はまるでオールマイトのポーズにも似ているものの、そのポーズは虎白の父のポーズであり、同じように手を伸ばす虎白の背中は父に瓜二つであった。


「うん!いい答えだ、相澤君、虎白君のこと頼んだよ!」

「はい」


後日、虎白は雄英高校ヒーロー科へと編入することが決まった。
目覚めたばかりで急に決まった編入に戸惑っていた虎白だったが、
それ以上に編入を喜んだマイクとミッドナイトに揉みくちゃにされ自然と笑顔になっていたのであった。


★ ★ ★


《虎白の夢はなぁに?》

『ぼくのゆめは、みんながわらってすごせるように、てっぺんにたって、みちびいてあげられる、パパみたいなヒーローになる!』

《ははっ!そうか、パパみたいにか》

『うん!』

《うん、いい答えだ、お前にならできるよ、……虎白》




END


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