★本編★

□目覚めの時
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〜目覚めの時〜




ピッピっと電子音が響き渡る。
真っ白い部屋には色々な機械が置いてあり、その部屋にあるベッドの上には虎白が未だに眠り続けている。
あの出来事から、もう8年が経とうとしていた。
あの日、眠りについた虎白を病院へと連れて行った、両親によって時の眠りにつかされた虎白の姿は8年前のあの時と変わっておらず7歳のままである。


「……虎白」


ベッドに腰かけサラリとした髪をそっと撫でてゆく、
虎白の存在を確かめるように、
生きていることを確認するように、
何度か頭を撫でれば相澤は、そっとベッドから立ち上がった
今日は、まだ仕事が残っていた。


「また、明日来るよ」


髪に軽くキスをして
相澤は病室を後にした


★ ★ ★


真っ白な空間にぽつんと意識がある。
此処がどこなのか分からないけど、とても居心地のいい空間であるのは間違いなかった。
いつも誰かの声が聞こえてる、
たくさんのたくさんの声、虎白って呼ぶ声
けど、それ以外の言葉はない、名前だけだ。


《虎白》


まただ、誰かが呼んでいる
男の人だ、
近くに行きたいと無意識に思ってしまう。


《虎白》


女の人の声も聞こえる。
僕は知っている、この人たちを
でも、わからない。
あの人たちの所に行きたいと、意識がふわりと動く、
何処にいるのかわからないけど二人に会いたい、そんな気持ちから思いっきり両手を伸ばした。


《《虎白……!》》


二人の声が重なった。
その瞬間ぶわっと光が溢れ、あまりの眩しさにぎゅっと目を閉じた。
ふいに誰かに抱きしめられたら
あったかい、ゆっくりと目を開ければ優しそうな二人の顔が目に入った。


『……!』


そうだ、僕はこの二人に会いたかったんだ
けど、僕の頭にはモヤがかかったように、誰なのかがわからなかった。


《僕たちの役目は終わり……本当のさよならだ》

《愛しているわ、私たちの大切な……》

《《……虎白》》


まって、まだ聞きたいことがたくさんあるんだ、まだ一緒にいたいんだ。
不意に、二人が僕の髪にキスをした。
その瞬間、僕の視界はぐるりと回り、暗闇へとゆっくり落ちて行った。


★ ★ ★ 


次の日になり、相澤はいつもの病院へと足を運んでいた。
虎白の病室へ向かう通路はいつもは静かだが、今日はバタバタとなんだか忙しなかった。
虎白に何かあったのかと心配になり無意識に足が速まった。
病室が見えてきた瞬間、すごい光と風圧が急に襲ってきて、その後子供の泣き声が響き渡り、暴れる音と医師たちのなだめる声が聞こえてきた。
この、子供の声には聞き覚えがあった。
相澤は慌てて虎白の病室の扉を開け、中へと駆け込んだ。


「虎白!!」


混乱しているのか、泣き叫びながら暴れる虎白。
虎白の周りには壊れた機械や割れた瓶などが散らばっていて、医師たちも虎白の力に圧倒され怪我をしている。
早く止めてやらなければ、これ以上は医師たちももっと怪我をすることになるし、虎白への負担も激しい。
相澤は思いっきり暴れている虎白を抱きしめた。


「っい……!?」


その時に腕をガブリと噛まれたりひっかかれたりしたが、それでもぎゅっと少し強い力で抱きしめてやった。


「落ち着け、落ち着け虎白、大丈夫、大丈夫だから」


抱きしめてやったことで効果がでたのか、腕の中にいる温もりが段々と静かになっていった。
完全に大人しくなったところで抱きしめる力を緩め、キラキラと光るオッドアイの瞳を自分の視界の中に入れた。


「虎白」

『……!』


名前を呼べば、ビクリと身体を震わせ目をまんまるくして見つめ返してくる。
そしてまたポタポタと涙を流し始めた、
先程のような暴れるような泣き方ではなかった。


『こはくっ……ぼくの、なまえっ……!』

「ああ、お前の名前だ」


今度は、虎白が相澤に思いっきり抱き着いた。
胸元にぎゅっと顔を埋めグリグリと頭を動かし声を震わせ、動きをピタリと止めた。


『……しょー、たっ?』


頭を撫でようとしていた相澤の手が途中で止まる。
驚きで目を見開き腕の中にいる虎白を見た
虎白は涙を流したまま、
困惑したような、不安そうな不思議な表情で相澤を見つめ、衝撃の言葉を放ったのだった。


″……それしか、わからない″


なんとも言えない感情が相澤を支配した。
相澤はそんな虎白を思いっきり抱きしめ腕の中にその小さな身体を閉じ込めたのであった。




END


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