夢小説(最遊記)

□三蔵の幼馴染ちゃんの不思議について
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三蔵の幼馴染みである雪英という女性はとても不可思議な存在だ。…と、悟浄たちは思う。

まずほとんど喋らない。

「……な、なんだ?」
「なに?」
「いや…」

時々、雪英は人をじっと見つめることがある。
何か言いたいことがあるのかと思って声をかけても、特に用事などないような反応を返される。
現に悟浄がそんな状況だった。

次の街までたどり着かずに野営をすることとなり、三蔵一行は現在、焚き火を囲んでいるところだ。
普通なら各々が好きなことをして過ごしているはずだが…。

「…」
「…」
「…」

今、焚き火の周りは異様な空気に包まれていた。

雪英が先程から何やら熱心に悟浄を見ているのだ。

それなのに悟浄が視線に耐えかねて声をかけても、その眠そうな半眼を瞬かせて首を傾げるだけ。

八戒に助けを求めて視線を送るも、彼はにこにこと笑うだけだ。
八戒も雪英の謎の視線に悩まされる1人であるから、もしかしたら関わりたくないのかもしれない。

悟空は役に立つはずもないので最初から宛にはしていない。

唯一、雪英を制御できるはずの三蔵はどこを彷徨いているのか焚き火の周りにはいない。
なんと役に立たない坊主であろうか。

打つ手なし。

雪英の隣に座ってしまったのが悟浄の運の尽きだった。

新参者、かつほとんど喋らない雪英の扱いは、面倒見のいい悟浄や八戒でも難儀している。
加えてあの人懐こい悟空ですら雪英には不用意に近づかないほどなのだから、彼女がいかに難解な相手であるか分かろうというものだろう。

じっ…と穴が空くほどの視線を横顔に受け続け、悟浄は不快ではないものの、非常に居心地が悪かった。
できればその透き通るような瞳に額のバンダナを押し付けてやりたいほどだ。

なんとかしてこの状況を脱したいが、如何せん雪英の様なタイプの人間とは縁がなく、どうやってあしらうべきかもわからない。

あっちに行ってほしいと言えば大人しく従ってくれそうな気もするが、嫌いでもない相手、しかも女を無碍に扱うのは気が引ける…などとごちゃごちゃ考えているところに、ようやく三蔵が帰ってきた。

「雪英」
「三蔵!」

声をかけられた途端に雪英はあっさりと悟浄から視線を外してぱたぱたと三蔵に走り寄る。
それを確認した悟浄の肩からようやく力が抜けた。
八戒から「お疲れ様です」と苦笑混じりに声をかけられた。
助けなかったくせになんだ、と思ったが口には出さず、なんとはなしにまた件の二人を見る。

嬉しそうに抱きつく雪英を片手で往なす三蔵はなんとも手馴れた様子だ。

不思議なのはこのイチャイチャしている光景を見せつけられてもからかう気にも鬱陶しい気にもならないことだが、あれは男女というよりも犬と飼い主に近い関係のものだからだと悟浄は思っている。

「三蔵!お前どこ行ってたんだよ。ふらふらしやがって」

そういえばこの飼い主がいないから自分はあの気まずい空気を背負うことになったのだと思い出した悟浄は、早速三蔵に抗議する。

本当にどこに行っていたのか気になったこともあるが。

「俺がどこで何しようが俺の勝手だ。…おい、離れろ」
「なぜ?」
「…いいから離れろ」
「わかった」

三蔵は悟浄に素っ気なく返事をしながら、ぐりぐりと額を胸に押し付けてくる雪英を引っ剥がした。

「三蔵様ったら照れちゃってまあ…」

先ほどの意趣返しとばかりに茶化してやると、ギロリと鬼神の様に鋭い目で睨まれたが、珍しく銃は撃ってこなかった。
おや、と思いその両手を見れば、片方では雪英を往なし、もう片方は何か木の実のようなものを持って塞がっている。

おかしい。この男がその辺りの木の実を食料がたんまりある今の状況でわざわざ食べるはずがない。

ということは、だ。

「三蔵、その木の実なんだ?美味いのか?」

食べ物には人一倍敏感な悟空が興味津々といった様子で三蔵の手にあるものをじっと見る。
八戒もそれで三蔵が何か持っているのに気づき、悟浄と同様の結論に至ったようだ。
悟浄と八戒は目と目で互いの意思を確認する。

「お、おい、八戒!悟浄!なんだよ!どこ行くんだよ!?」

2人は無言で両サイドから悟空の腕を掴み、ジープの方へと連行した。

「馬に蹴られないように遠ざけてやったんだ。感謝しろ猿」
「なんだよ馬って!?」

猿に恋愛の機微はさすがにわからんか…と馬鹿にする意味も込めて悟浄が盛大にため息をついてみせると、悟空が余計に喚くが気にしない。

とりあえず今回の件は三蔵に貸し一つだ。

ちらりと視線だけで後ろを見て、悟浄はすぐに後悔した。
揃えた両の手の上に木の実をのせて嬉しさに少し頬を染める雪英と、それを見て満足気に口の端を緩める三蔵がいて、胸焼けするほどの甘さで口の中がいっぱいになっしまった。

「ったく…。感謝しろよ、くそ坊主」
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