夢小説(最遊記)

□三蔵の幼馴染ちゃんについて
1ページ/1ページ

とある街のとある宿屋にて三蔵一行は休息をとっていた。

八戒、悟浄、悟空ついでにジープの3人と1匹には気になる存在がいる。それは…。

「茶」
「ん」

三蔵が当然のように顎で使う雪英という女性のことである。

流れるような銀髪に、金と見紛う琥珀の瞳を持った、年齢の割にはやや小柄な女性。

三蔵曰く彼の幼馴染みであり、彼女が金山寺を飛び出して以来音信不通だったところ、たまたま立ち寄った街で三蔵たちが宿に困っていた時に再会を果たし、彼女が世話になっていた老夫婦のところに案内されてなんやかんやで旅に同行することになったのである。

色々と彼女にも複雑な事情があるようだが詳しいことはよくわからない。
そんな不思議な人だ。

しかし、八戒達が今最も気になるのは彼女の秘密などではない。

「なあ、八戒…。あれ絶対ただの幼馴染みって感じじゃねぇよな」

悟浄の目線の先、そこでは三蔵と雪英が机を囲んでゆったりとお茶を飲んでいる。

三蔵は新聞を読みながら、雪英は屋台のおじさんに貰った饅頭を食べながら。

会話はほとんどない。
だが不思議と気まずい雰囲気ではなく、寧ろその周囲は穏やかで優しい空気に包まれている。

例えるならば老齢の夫婦が縁側でお茶を飲みながら日向ぼっこしている時の雰囲気に近いのだろうか。

しかし、それにしては時折交わされる言葉の端々が甘やかな色を帯びている気がする。

「でも、恋人にしては何か違う気もしますね」
「それなんだよなぁ…」
「え!?俺、三蔵と雪英って付き合ってるのかと思った!」
「馬鹿!でかい声出すんじゃねぇよ猿!」
「悟浄、あなたの声も相当大きいですよ」

何故ここまでこそこそとしているかと言うと、三人は三蔵達と同じ部屋にいるわけではないからだ。
彼らはドアの隙間からこっそりと二人を覗き見している。
所謂出歯亀のような状態だ。
決して行儀の良い行いではない。

だが、これというのも全てはあの二人が原因なのだからと八戒は心中で言い訳がましく呟いた。

この街にたどり着いた時、運のいいことに宿は四部屋空いていた。

当初、八戒は雪英が女性であることに配慮して一部屋は彼女に譲り、残りの三部屋のうち一部屋を二人で使おうと思っていた。

しかし、三蔵は迷う素振りも見せずに鍵をひとつ取ると、雪英に一瞬だけ目を向けて部屋へと向かった。

雪英は三蔵の意図を汲んだようにその後をついて行き、そのまま仲良く二人で部屋を使い始めてしまったのだ。
―この間、八戒たちは唖然として事の成り行きを見守ることしかできなかった―

八戒たちが二人の間には絶対に何かあると思うのも仕方のない出来事であり、それを探りたいと思うのも当然の心の動きである。

そういうわけで現在、三人で覗きなどやっているのだ。

「しかし、あの生臭坊主にあんな可愛い幼馴染みがいるとはなぁ。わかんねぇもんだぜ」
「女性には興味がない、なんて豪語していた三蔵ですからね…。いやー、気になっちゃいますよね」
「悟浄はともかく、八戒がこういうことすんのって珍しいよな」
「おい、猿。俺はともかくってのはどういうこった?お?この色気づいたエロ猿が」
「はぁああ!?エロいのは悟浄の方だろエロ河童!一番乗り気だったくせに!」
「あ?俺はあのチェリー坊主がしくじらないよう見守ってやろうってんで来たんだよ!てめぇと一緒にすんな猿!」
「なんだよ!俺だって三蔵があの子に銃撃ったりとかしないか心配で見てたんだよ!そっちこそ一緒にすんなよエロゴキブリ!」

自分たちが何をしているのかも忘れて大声で喧嘩を始めた二人から、八戒はそっと距離をとる。
この後の展開など考えずとも分かることだった。

「思春期猿!!」
「発情期河童!!」
「なんだとてめ…」

「おい」

場を制したのは空恐ろしいほど静かな声。

その一声だけでついさっきまであれほど元気だった二人は冷や汗すら流して固まってしまった。
何が起こっているのか、いや、これから何が起こるのか全てを悟った彼らは、一呼吸置き覚悟を決めると、ゆっくり、ゆっくり、振り返った。

まず、少しだけ開けていたはずのドアが大きく開いていることを認識した。

次に法衣の裾が見えた。

経典が見えた。

形の良い顎が

笑わない口元が

絶対零度の無を宿した瞳が…。


恐怖の大王が佇んでいるのが、見え
た。


ザッと哀れな男達の顔から血の気が引いていく。

「さ、ささ、三蔵」
「ま、待て!俺達はお前のことを思ってだ!」


「死ね」



その日、穏やかな街に銃声と断末魔が響き渡り、とある宿屋には複数の風穴が空いたという――。
次の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ