お試し〜コナンキャラ×木之本桜ちゃん

□降谷零さんとさくらちゃん(パラレル)
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「……すごいな……」

サイトに載るだけの事はある、と思わず呟いてしまう。公園を囲うように植えられている桜の木の下には花見客だろう。シートを敷いている者もいる。ニュースで花見日和という事だけあり、青空に華やかに、そして儚く咲き誇っている桜。今は走るのをやめ、公園に入り散策している。
ここには「ペンギン大王」と呼ばれ親しまれている滑り台があるそうだが……ああ、あの滑り台だな。遊具や花壇なども手入れが行き届いているのが見えて心地よい。
昼間来たら子どもたちで賑わうこの公園を目にすることが出来るだろうか。今日来た感じだとそれほど時間がかかった訳でもない。うまく時間を調整すればまた来る事が出来るだろう。のんびりと特に何も考えずにまたこの公園に桜を見に来ようか。
そんな事を考えている時だった。ハロが何かに気づき、ピクリと顔を上げたのは。

「?ハロ?」
「アンアン!」
「あっちに何かあるのか?」
「アン!」

どうしても行きたいと言わんばかりにリードを引っ張られる。自分には特に変わったものは見えないが、何があるのか少し興味を持った。どうせ時間はあるしちょうど進行方向だ。そのまま道なりに足を進めた。
しかし本当に桜並木がきれいだな。花びらが水面に落ちるのも風情がある。……ああ、少し先にまた桜を見に来たのだろう人影が見える。
近づくにつれてはっきりとその姿が分かるようになっていく。白のタートルネックにクリーム色のカーディガンを羽織り、薄桃色の膝丈下のスカートを身につけた女性の姿。歳は自分よりも若いだろう。しだれ桜の木の幹に触れながら、嬉しそうに微笑むその女性をはっきりと認識した時、自分の心臓がドクリ、と大きく波打つのを感じた。

「ワン!」

リードを持っている手が緩んでしまったのかハロが僕のそばから離れ、前方に、そう。しだれ桜の下にいる女性の元に向かっているように走りよっていく。このままでは迷惑をかけてしまう。リードを掴まなければ。
そう分かっているのに。目も足も、いや身体全身が根をはっているかのように、自分だけ時間が止まってしまったかのように動かない。

「アン!」
「?!ほえっ?……わあ!可愛い!」

ハロは勢いそのままに女性の足元にぶつかった。全く気づいていなかった女性は本当に驚いたのだろう。悲鳴を小さく上げ、目をまん丸にしたもののハロを認めるとぱあっというように目を輝かせて、ハロの頭を撫でている。ハロも嬉しいのか尻尾をちぎれんばかりに振っている。
先程からおかしい。身体が動かなくなっている事だけじゃない。顔を中心として急激に体温が上昇している。心臓の鼓動が強く忙しなく打っている。声を発する事も出来ない。それは分かる。だが理由が分からない。何故だ?変わった事といえば散歩コースを変えた事ぐらいなのに。

「ワゥ!」
「ふふふ。私、木之本桜っていうの。あなたのお名前は?」
「アン!」
「うーん……あ!」
「…っ」

目線が女性とハロに固定されていたせいで、ハロの飼い主がいるのか探そうと顔を上げた彼女と目が合う。その瞬間に花が咲いたように笑う彼女の笑顔にまた体温が上がっていくのを感じる。

「初めまして。おはようございます」

こちらこそ初めまして。それからおはようございます。その子がご迷惑をかけてしまってすみません。
愛想の良い好青年の「安室透」ならばそう答えるのが正解だ。なのに肝心の言葉が発せられない。ただ自分に笑顔が向けられただけなのに。
彼女に聞こえてしまうのではないかというくらいに心臓がうるさい。冷静になれと命ずるものの頭は大混乱している。ようやく鈍く動いた頭が出した指令は
「自分は今正常ではない。そんな状態ではまともな受け答えなど出来ず、相手を困らせるだけだ」
であった。つまり逃げろ、という事だろう?自分でもどうかしていたのは分かる。だが色々ともう限界だったのだ。


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