ごちゃ混ぜ短編集

□剣心とメイドさん(笑)
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「御主人様ぁ〜」
ザワ…
「あれ?聞こえてません?御主人様?」
ヒソヒソ…
「ごーしゅーじーんーさーまー!」
ヒソヒソヒソヒソ…
「…お主」
「あ!やっと返事してくれましたね!」
「頼むからその呼び方は止めるでござるよ」

そして周りを見てほしい。ただでさえ刀を持って…いやそれ以上に異国の服装の彼女は目立ち過ぎるのに。先程から連発される御主人様発言で余計に目を引いている。主に拙者が。

「御主人様って」
「え、何の遊戯?」
「うそ…あんな文無しっぽい人が?」

誰でござるか文無しと言ったのは。

「いやでーす。何故ならば貴方様は私の御主人様なのですから!キャッ、言っちゃった!」
「…はあ…」
「御主人様〜?幸せが風と共に去っちゃいますよ〜?」
「誰のせいでござるか」
「古来から申しますでしょう?長いものには巻かれよ。考えるな感じろ。良妻は文無しでも質に入れるなと」
「お主まで文無しと言うか」
「別に玉藻は御主人様が文無しでも全然構いませんよー?上手く家計をやりくりするのがメイドかつ妻たる私の使命なのですから!」

…何でござるか…この不毛なやり取りは。何故こんなことになったのか。

話は数ヶ月前に遡る。拙者はその日横浜にて廃刀令違反だと警官に追われていた。そこへ首根っこを掴み、物陰へと引きずり込む手が突然生えてきた。その時は上手く逃げきれたから感謝した。その時は。

『かたじけない…礼を』
ガシッ
『…おろ?』

何故拙者は恭しく手を取られているのだろう。
何故目の前の…恐らく拙者を助けてくれた女性は目を輝かせているのだろう。

『私、玉藻と申します。失礼ですが、貴方様の御名前を伺っても宜しいですか?』
『せ…拙者は、緋村剣心と申すが…』
『では緋村様!』

何故だろう。嫌な予感がした。

『貴方様のイケ魂に一目惚れ致しました!貴方様こそが玉藻の理想の御主人様にございます!』
『…は?』

思わず素が出てしまった。


「ごっ主人様〜?どうなさいました?」
「…っ」
「やったー!御主人様の驚き顔ゲーットォ!」
「…何がそんなに嬉しいのでござるか?」
「え〜?好きな人の色んなお顔を拝見したいというのが乙女心というものなのです」
「…はあ…」
「ここは照れたり動揺するところでございますよ?」

彼女は自分は欧州にてめいど…女中のような仕事をしていたと言った。
それは分かった。
そして理想の主人を見つける世界旅行をしていたらしい。
意味が分からない。
さらに拙者がその理想の主人だと見定めたらしい。
訳が分からない。
説得した。自分は敬われるような人間ではないし、賃金など払えない。宛のない旅をする剣客だと。だが

『きゃっ!新婚旅行にございますか?御主人様ったら積極的!これがアスパラベーコン?ベーコンアスパラ?あれ、何だっけ?』

更に意味の分からないことを言われた。
ならば実力行使。撒いてしまえば追いかけては来ないだろう。

『御主人様、運動神経良いんですね。玉藻ますます惚れ直しちゃいました!』

普通に追ってきた。一応段々とこちらも全力で走るようになったが、あちらも全力で追いかけてきた。
その他諸々やってのけてはいるが、何故か絶対に撒けない。その執念に恐怖さえ覚える。
何故拙者が何かしようとすると勘づかれるのだろう…
もう諦めるべきなのだろうか…

「はい、諦めちゃいましょう!そして私と貧しくも幸せな結婚生活を!」
「心を読むなでござる…」
「それはそうと〜御主人様?本日の寝床を探しませんと」

確かにもう夕方でござる。そろそろ野宿の準備もせねばな。というか本当にもう旅の同行者として受け入れ始めている自分がいるでござる。

「お主は…野宿ばかりで嫌ではないのか?」
「え?御主人様がいらっしゃるなら玉藻にとってはそこが極上の幸せ空間なのですよ?お外とか細けー事はどーでもいいのです」

…若干、拙者が野宿ばかりしているせいで強制ではないが、付き合わせてしまっていることを謝罪すればケロリと返される。その瞳に何の嘘偽りはない。向けられる多大な信頼が何ともこそばゆい。

「そうか…」
「そうでーす。ささ、日の暮れないうちに今宵の私たちの愛の巣を!」
「愛はないが行くでござるよ、玉藻」
「…?!い、今御主人様…私の名前を…?!」

…決して絆された訳では無い。断じて無い。いつかは離れる日が来る。だが…それまでは…

「ご、御主人様!もう1回!もう1回言ってくださいまし!」
「断るでござる」
「んなあ?!」

自分を一心に慕ってくれるこの存在と共に。




「そう言えばお主、何歳…」
「御主人様?女性に年齢とかは聞いていけないものの一つにございますよ?」

…まさか二十代ではござらぬだろうな…


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