世界を繋ぐ命の環(コネクトリング)シリーズ ver.薄桜鬼 #02
※プロローグ、01はmainにて。

***

目を覚ますと、知らない木目の天井が広がる、どことなくジャポン風の部屋に寝かされていた。下の方を見れば、たしか畳といったか、独特の香りのする床の上に直接布団が敷かれている。
異世界へ渡るリングという話だったが、私はジャポンに来てしまったのだろうか。確かにあそこは、私たちの世界の中でも変わった文化を持つ国で、異世界に見えなくもない。もちろん、ここがジャポン似の、全く別の世界の全く別の国であることも考えられる。

やはり不審者に思われたのだろう、縄で拘束されていた手足を力技で解く。何か仕掛けがされていないかオーラを凝で目に集めてみるが、部屋の中にはオーラは見えず、念能力の痕跡はないとみた。
念能力者に対して、本当にただの縄での拘束のみ。やはりここは、異世界だろうか。

とにもかくにも、まずは状況を把握しなければ始まらない。この部屋を出て、外の様子を見てこようと思う。
……思う、のだが。

「気づいたか」
「ええ。貴方は私の監視役?」

部屋の外。そこにはずっと、人の気配があった。
確か障子と言ったその建具の向こうに、目覚める前からいたのだろう人物。思っていたより気配には敏感なようで、こちらから声をかけるまでもなかった。

「わかっているなら話は早い。来い」

落ち着いた、それでいて有無を言わせぬ口調でそう言った彼によって障子が開かれる。
そこにいたのは、濃紫の髪を右の肩口で結った青年。全身が黒の着物で包まれる中、首元の襟巻きの白さがよく映えていた。右腰に差された2本の刀が彼の武器だろう。

「! ……拘束を解いたのか」

私の姿を捉えた彼の手が、刀へとかけられる。その視線は、私と、その周囲に散らばる縄の破片へと向けられていた。

「この程度の拘束、私には無意味よ」
「……」
「……別に逃げたりしないわ。聞きたいこともあるし」
「……」
「さ、連れて行ってくれるんでしょう?」
「……こちらだ」

しばらく無言でこちらを見ていた青年は、それでも半ば諦めたようにそう言うと、私を先導するように歩き出した。

彼について行くと、1つの部屋の前で立ち止まった。障子で仕切られた向こうに、複数の気配を感じる。

「連れて来ました」
「入れ」

青年が中へ。それに続いて私も部屋へ入ると、全員の視線が一気にこちらへ向けられた。
上座に3人、下座に5人、そして部屋の隅に1人。私を連れて来た青年を入れて10人。
各々が武器として刀を所持しているようだが、この程度の人数なら、いつでもここを出て行けると見た。

「! 斎藤、そいつの縄はどうした!」
「……それが、自力で解いたようです。部屋の様子を見るに、引き千切ったかと」
「何だと!?」

私の姿を捉えるなり、長い黒髪を結う紫の着物の男が声を荒げる。茶髪の青年を筆頭に、それぞれの刀に手がかけられる。

「……近藤さん、切っちゃって良いですよね?」
「待て、総司! みんなも落ち着け!」

コンドウと呼ばれた男が部屋にいる男たちを宥める。その様子を見るに、彼がこの中で一番の権力者ということか。

「そんな構えなくたって何もしないわ。聞きたいことがあるの」
「……そうか。驚かせてすまない。さあ、君も座ってくれ」
「……ええ」

前にコンドウ含む3人。後ろの障子の前に、私を連れて来た青年。ほかの人たちは左右にそれぞれ数人ずつ。
まるで、というよりこれは思い切り、私が尋問される側の配置だ。最も、この程度で萎縮する私ではないけれど。

「……あー、とりあえず、君の名前を聞いても良いだろうか?」
「構わないけれど。……ルリア=ナイトレイよ」
「るり……?」

名乗ったというのに、聞き取れなかったのか首を傾げられた。こんな反応をされたのは初めてだ。

「ルリア=ナイトレイ。……ルリアで良いわ」
「るりあ、くん……というのか。その髪の色からしても……君は異人かい?」
「いじん……?」

いじん、とは。話の流れから言って確実に「偉人」ではない。
おうむ返しにした私に、コンドウの隣のメガネをかけた男が注釈を入れてくれた。

「……貴女は、海の向こうからこの国に来た方なのですか?」

なるほど、異国人という意味で「異人」らしい。確かにここは私にとって異国である。
しかしそれ以前に、私にとってここは異世界であるはすだ。エヴィのリングが正常に機能していれば、の話だが。
けれど、異世界人であっても「異人」と呼ぶことはできるわけで、今のところ肯定を返しておけば良いだろう。

「そうね、異人になるかしら。……私が聞きたいのはまさにそこなのだけれど、ここはどこかしら?」
「と、言いますと?」
「そのままよ。ここがどこの国の何という場所で、貴方たちが誰で、今はいつなのか」

私のその問いに室内の空気が変わり、彼らが互いに顔を見合わせる。その顔に浮かぶ多くは困惑で、見かねた黒髪の男が眉間の皺を増やしながら言った。

「何を言い出すかと思えば……テメェがいる場所もわからねえ、今の元号も知らねえってのはどういうこった! いくら異人と言ったって、そんなもん餓鬼でも知ってる」
「そうですね。それに、異人だとしても貴女の身なりでは余程のことがない限り目立つことでしょう」

メガネの男も続ける。この2人が、この組織の頭脳だろう。

「……テメェ、ほんとにただの異人か?」

それは問いのようでいて、ほとんど確信を持って放たれた言葉であった。

「ふふ。ええ、私は確かに異人よ」
「……」
「ただし、異国人ではなく……異世界人、だけれどね」
「何……?」

黒髪の彼の、眉間の皺がまた増えた。








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