海月の夢見た世界

□初デート追跡中
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「……安室さん、何かあったの?」

シェリーこと灰原をベルツリー急行で消そうとした組織の探り屋、バーボン。その正体は、小五郎のおっちゃんに最近弟子入りした私立探偵、安室透だった。
シェリーの暗殺に成功した後も、なぜかポアロでのバイトを続けるバーボン。奴の新たな狙いはわからないが、蘭と園子がポアロへ行くというので、俺も安室さんを監視するべくポアロへ同行した。

ポアロへ行ってみると、そこにいたのはどことなく沈んだ様子の安室さん。シェリー暗殺は成功しているはずであるし、客へ向ける顔はいつもの笑顔だ。けれど、ふとした時に表情が暗くなっている気がする。
さては、組織の方で新たな何かがあったのか。それを探るべく俺は声をかけた。

「え? ああ……わかるかい? 表情には出さないようにしてたつもりなんだけど」
「もしかして……恋の悩み!? ルリアさんのことでしょ!」

苦笑しながら言う安室さんに、閃いたと言わんばかりの園子が食いついた。

「ええ、まあ……デートに誘おうと思うんですけど、どこが良いかなって」
「え、意外……安室さん、もっとスマートに誘いそうなのに」

どんな悩み事かと思えば、まさかのデートスポットについて。
そういえば安室さんは、出会った(安室さんから見れば、正確には再会した)その日にルリアさんに告白していた。ポアロでの2人の様子を見るに、まだ交際には至っていないだろう。

始め、ルリアさんがバーボンである可能性も考えていた。けれどバーボンは安室さんで、彼女ではなかった。
それならバーボンとはまた別の、黒ずくめの組織の人間か。けれど灰原はその可能性は低いと言うし、彼女のこれまでの様子を見る限りでは俺もそう思う。日本語の読み書きができず電化製品の使えない人間を、組織が引き入れるとは考え難い。

他の可能性としては……安室さんがバーボンとして、ルリアさんに近づいていた場合。見ている限り安室さんはまっすぐにルリアさんへ好意を向けているが、それがバーボンとしてのハニートラップである可能性は否定できない。
この仮説が正しいとすれば、彼女は組織に狙われるほどの何かを持っていることになる。記憶喪失である彼女からその周囲を探ることは難しい。ならばその何かは、彼女だけが持ち得る知識か能力だろうか。

「ちょっと園子! ん〜、そうですね……あ、水族館はどうですか?」
「水族館?」
「はい。前、ルリアさんに米花水族館に行った時の話をしたんです。その時、興味あるみたいだったので」
「良いんじゃない? デートとしては定番だし。あ、でも、ルリアさんならワンチャン行ったことないかも」

水族館。蘭のその提案に園子も同意する。
蘭にとっての米花水族館といえば、俺の体が縮む前、新一として行ったあの時のことだろう。それをルリアさんに話していたというのは少し意外だった。

「良いかもしれないですね……水族館。ありがとうございます。ルリアさんを誘ってみます!」

2人の案には安室さんも賛成のようで、シフトが合う時に出かける方向でとんとん拍子に話が進んでいく。安室さんのルリアさんへの気持ちを知っている梓さんも協力的で、シフトの調整は任せろと意気込んでいた。


「……で、私と君で水族館ですか?」
「……うん」

そうして迎えた2人のデートの日。俺はいつも通り沖矢昴に変装した赤井さんと共に、米花水族館に来ていた。
本当なら探偵団の奴ら辺りと来た方が自然だが、あいつらと一緒だとどうやっても目立つのが目に見えている。それに安室さんとルリアさんが来ていることを知った奴らが、2人に声をかけないわけがない。
周りからの視線を感じないわけではないが、この場合は昴さんとが正解だろう。

「ここが水族館……ですか?」
「ええ。梓さんから、イルカがお好きだと聞きまして」

背後から聞こえてきた声に、咄嗟に昴さんと柱の影に身を潜める。チケットカウンターの隣、入場ゲートの前に、些か目立つその2人はいた。
褐色肌に金髪のイケメンが、同じく淡い髪の外国人美少女の手を引いている。エスコートという言葉はまさに2人のためにあるようで、その場にいる誰もが一度は彼らへ視線を送っていた。

「順路はこっちみたいですね。行きましょうか!」
「はい……!」

館内案内のパンフレットを片手に安室さんがルリアさんを促す。それに珍しくどこかワクワクした様子でルリアさんが答えていた。

「では、我々も行きましょうか?」
「うん」

これで、何かわかるだろうか。



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