海月の夢見た世界

□打開策
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ルリアさんにこれといって怪しいところが見つけられないまま、時間だけが過ぎていた。

何かこの状況を打開する方法はないかと考えた時、思い出したのは彼女が定期的にホームセンター行っていることだった。
毎週日曜日。ポアロのシフトが休みであるその日に、必ず駅前のホームセンターへ行く彼女。買っているものについては推測でしかないが、十中八九、蘭さんから教えてもらっていた人工海水用の塩だろう。

風見に確認してもらっている彼女の行動記録から、蘭さんと電話をしたあの日以降、彼女が日曜日にホームセンターへ行かなかった日は1日しかない。
それは、僕の代わりにシフトに入った週。シェリーを暗殺するため、僕がバーボンとしてミステリートレインに乗っていたあの日だ。

毎週欠かさず購入する人工海水の素。白もやのイルカ。そして、彼女を初めて見た場所は海岸。
彼女のことを知るには、やはり海に関係ある場所へ連れて行くことが必要だろう。
ポアロがあるこの米花町にも水族館はある。海まで連れて行くよりは、近場の水族館の方がより自然に誘えるか。

そう考えた翌日、僕はさっそく行動に出た。


「……安室さん、何かあったの?」

ポアロにて、シフト中に意図して思い詰めたような表情を作っていると、コナン君から声をかけられた。最近彼から、探るような視線を感じる気がすることが時々ある。
僕の何を知りたいのかは知らないし、そもそも気のせいかもしれないが、これ幸いと、それを利用させてもらうことにした。
要するに僕は、コナン君からのその言葉を待っていたのだ。

「え? ああ……わかるかい? 表情には出さないようにしてたつもりなんだけど」
「もしかして……恋の悩み!? ルリアさんのことでしょ!」

そして、同じテーブルに着いている園子さんからこの言葉を引き出し、蘭さんとの会話のきっかけを作ることを。

「ええ、まあ……デートに誘おうと思うんですけど、どこが良いかなって」
「え、意外……安室さん、もっとスマートに誘いそうなのに」
「ちょっと園子! んー、そうですね……あ、水族館はどうですか?」
「水族館?」

内心、来た、と思った。

「はい。前、ルリアさんに米花水族館に行った時の話をしたんです。その時、興味あるみたいだったので」
「良いんじゃない? デートとしては定番だし。あ、でも、ルリアさんならワンチャン行ったことないかも」

記憶喪失の一言では表せないほど、どこか世間知らずな彼女。園子さんの言う通り、水族館に行ったこともないかもしれない。あるいは、その存在すら危うい可能性だってある。

「大尉が来るようになってからルリアちゃんと好きな動物の話をしたんですけど、イルカって言ってましたよ」

そういえばと、カウンターの向こうから僕たちの話へと入ってくる梓さん。
この話からすると、ルリアさんのあの白もやは、自分の好きな生き物を形作っていたのかもしれない。だとするならば、自由にその形を変えられるということにもなる。

「良いかもしれないですね……水族館。ありがとうございます。ルリアさんを誘ってみます!」
「上手く行くと良いですね」
「頑張って、安室さん!」
「はい」

お礼を言って園子さんと蘭さん、コナン君を送り出した僕は、その日のシフト明けに風見へ連絡を入れた。

「僕だ。至急手配して欲しいものがある」
「わかりました。何を用意すれば良いですか?」
「米花水族館のチケット、2人分だ」
「……水族館、ですか?」

風見からの返答には妙な間がある。そんなものを経費で落とす気なのか、という風見の心の声が電話越しでも聞こえた気がした。
まあ、同じことを言われたら僕だって風見のような反応をするだろうから、その態度を責めるつもりはないが。

「勘違いするな。これはルリア・ナイトレイの素性を明かす調査の一環だ」
「そ、そうでしたか……失礼しました。明日には準備しておきます」
「わかった。明日取りに行く」
「了解しました」

これでチケットの手配は済んだ。
当日彼女とは、しばらく館内を見て回った後、さり気なく離れる予定だ。自分に馴染みのある空間で1人になった時、彼女は一体どんな行動に出るのか。
これで何の反応を得られなかったら、次は海まで連れて行けば良い。今度は本物を見に行こうとでも言えば、その建前もできるだろう。

後はルリアさんを誘うのみ。



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