ミルククラウンを戴く

□組み分けの儀式
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ハーマイオニーやウィーズリーの双子、ドラコなんかの来客の相手をし、初めて食べる魔法界のお菓子やばあやの持たせてくれたサンドイッチに舌鼓を打っているうちに、列車はホグズミード駅へ到着した。ハリー、ロンと交替で着替えた制服とローブを見に纏い、駅のホームへ降りる。

「イッチ年生! イッチ年生はこっちだ!」

大きな、なんて言葉では例えられないサイズの男性が私たち新入生を呼んでいた。ハリーが「ハグリッド」と笑顔で呼びながら近づく。私たち新入生はハグリッドに連れられ足場の悪い道を進み、ボートに乗って湖を渡った。

『綺麗……』

そうして見えたのは、窓の向こうから漏れる、淡い蝋燭の光に包まれたなんとも幻想的なホグワーツ城。
思わず、そんな声が溢れてしまうほどに。ここがイギリスであることも忘れ、日本語が口をついていた。


ボートを降り、石の階段を上がってたどり着いたのは大広間の前。
そこで待っていた厳格そうな魔女は変身術の教授、ミネルバ・マクゴナガルだろう。彼女はこれから新入生の組み分けを行うこと、できるだけ身なりを整えておくことを伝え、一旦私たちの元から離れて行った。

「本当だったんだな、ハリー・ポッターがホグワーツに入学するって」

気取った話し方でハリーの前にやって来たのは、汽車の中でも一度会っているドラコだ。彼は後ろのクラッブとゴイルを紹介し、ハリーに名乗る。そしてハリーの隣にいたロンを見て、馬鹿にしたように笑った。

「魔法族にも家柄の良いのとそうでないのがいる。間違ったのとは付き合わないことだね」

そして言いながら、更に隣にいた私へと視線を移した。ドラコは頭のてっぺんから足の先まで私を見て、それから納得したように頷いた。

「……君は?」
「私? アカネ・ミズシマよ。よろしくドラコ」
「っ、ああ、よろしく」

そうこうしている間にマクゴナガルが戻って来て、私たちは大広間へと足を踏み入れた。その大広間も、先程湖から見たホグワーツと同じくらいの迫力があった。
天井は黒い空が広がり、その中で星が瞬く。いくつもの蝋燭が宙に浮かび、4つの長テーブルと奥の教員席、そこ座る者たちを照らし出していた。

教員席の前に、4本足のスツールと組み分け帽子が置かれ、マクゴナガルが隣に立った。名字のアルファベット順に名前が呼ばれ、組み分け帽子を被っていく。

「マルフォイ・ドラコ!」
「──スリザリン!」

アルファベット順。Mのドラコが呼ばれたということは──

「ミズシマ・アカネ!」

私の番だ。
新入生の中で、1人だけ違う顔立ち、名前の響き。この後呼ばれるハリーほどではないにしろ、目立たないわけがなかった。

帽子を被る。突如、聞こえるしわがれた声。

「(ふむ……なるほど。これはどこに入れたものか……)」

悩み始めたその声を聞いて、私はこの帽子のことを思い出す。そうだ、この帽子は。

「(……組み分け帽子、貴方、今見ているの?)」
「(……私はその者の内を見る。無論、君の秘密も例外ではない)」
「(やっぱり)」

組み分け帽子は人の本質を見抜き寮を決める。それは一種の開心術と言っても良い。ならばこの帽子を前に、閉心術を身につけていない私が、私の秘密を守りきることは不可能に等しかった。
前世の記憶を持つという事実は、すぐにダンブルドアへ知らされるのだろう。

「(君はその知識を使い、多くの命を救おうとしておる……しかし、ここで自らの為に学びたいという欲にも満ち満ちている……その為に手段を選ばずここへ来ているが、その実、努力を惜しむつもりもない……う〜む、どうしたものか……)」
「(……貴方が全てわかっているのなら、私が選ぶ道は一つだわ)」
「(だが、良いのかね? これは決して楽な道ではない)」
「(……覚悟は出来てる。ダンブルドアが、私の前に現れたその日から。私の記憶はきっと、この為にあるのだと)」
「(……わかった、ならば……)……グリフィンドール!」

長い沈黙を破るかの如く、帽子の叫び声が大広間に響き渡った。
帽子が被さるか否か程度で組み分けが終わった先のドラコと比べて、あまりにも長い私の組み分け。結果、グリフィンドールであることが告げられると、赤と金のネクタイをした一団が大きな歓声で震えた。

その後、原作通りハリーもグリフィンドールへ組み分けられ、ダンブルドアの合図の元歓迎会が始まった。

「アカネ、食べないの?」

隣から声をかけて来たのはハリーだ。
目の前のテーブルの上には溢れんばかりの料理が乗った皿が並んでいるが、私の食はあまり進まなかった。それもそのはず、ホグワーツでは遅めの夕食となっている現在、日本時間では明け方5時といったところだ。
これに備えて仮眠を取ってきてあるとは言え、あと数時間もしたら起き、朝食を食べて学校へ行かねばならない。そんな時間に、ただでさえ肉と炭水化物が多く重いイギリス料理が進むはずもなかった。

「私、この時間はあまり食べないの。だから気にしないで」

もちろん、「この時間」とは「明け方」のことであるが……そんなことを知る由もないハリーは、そういうものかと自分の食事を再開していた。
料理の中でも軽そうなものを少しだけつつく。しばらくすると料理が消え、代わりにデザートが現れた。これにもほとんど手をつけず、私にとっての歓迎会は周りと話す時間となっていた。

「全員、良く食べ、良く飲んだ事じゃろう。新学期を迎えるにあたり、いくつかお知らせがある。まず、校内にある森は入っては行けません。また、とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい四階の右側の廊下に入っては行けません」

どう考えても引っかかる言い方をしたダンブルドアのお知らせの後、めちゃくちゃな校歌を歌って解散となった。

監督生であるパーシーに連れられてグリフィンドールの寮に入り、それぞれ自分の部屋を確認する。驚いたことに、私の部屋は女子寮と男子寮に続くそれぞれの階段の入り口、その真後ろにあった。
気持ち程度ではあるが階段に隠れるようにして設置された扉。そこに、これまた驚くことに日本語で「水島 朱音」と書かれていた。

初日から騒ぎになってはまずいと、可能な限り周りに気づかれないように自室へ入り、備えつけられた暖炉へフルーパウダーを入れた。
後1時間もしたら、ベッド脇の目覚ましに起こされることだろう。



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