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□戦場のポラリス
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01.審神者適性検査


西暦2205年。歴史修正主義者による過去への攻撃が始まってしばらく。時の政府は、新たな審神者を探すため、定期的に審神者適性検査なるものを実施していた。

審神者の才を持つ者を見つけることは、思いの外難しい。より有能な人材を見つけることもまた然り。しかし、歴史修正主義者の勢力は拡大の一途を辿る。
そんな中、審神者としての能力の核となる霊力を基準に適性を測ろうと、この検査が採用された。計測装置の前で霊力を解放し、その質や量を測る。一定以上の数値が現れれば、その者は審神者として登用されることとなる。

18歳以上であれば受けられるこの検査を、多額の報酬や親族への特別措置などを目的に多くの人間が受けにきた。時と場合によっては命の危険があり、その後の一生を異空間にある本丸や政府管轄地で過ごし、現実空間に戻れるのは年間に24時間。加えて、一度審神者となったら最後、自らの意思で辞めることは不可能であるにもかかわらず。

その日もまた、審神者適性検査が行われていた。志願者たちが数人ずつ、各々の前に置かれた計測装置に霊力を送っていく。彼らから解放された霊力を受け、装置の2本の針が、それぞれ質と量の度合いを指し示す。

「……次のグループ、始め」

性別も年齢もバラバラな審神者候補たちの霊力値を記録している私は、時の政府の人間。
手元のタブレットに並ぶ数字を見て、思わず溜息をつきたくなった。低いのだ。受験者全体的に、霊力値のどちらもが。
本当に才能のある人財がやってくることは少なく、多くは審神者になれず帰っていく。現状これと見込める者はおらず、今日は稀に見るハズレの日だと諦めかけたその時。
部屋の中心が、眩しいほどの白い光に包まれた。眩しさに思わず目元を覆う。

「っ、なんだ、今の光は……」

光が収まり部屋の様子を確認し、部屋の中央に立つ一人の少女に気づいた。長い銀の髪を揺らす彼女は、明らかに先程までこの部屋にいなかった人物。
次第に騒めき出し、政府関係者が警戒を強める部屋の中。ゆっくりと目を開けた彼女は、逆にこちらを観察するように眺め始めた。

「……ねえ、聞いても良いかしら?」

疑問形で放たれたその声は、しかし、どこか無視できない強制力を含んでいた。けれど、その圧力から、誰も何も返せない。
無言を肯定と取ったのか、彼女は再び口を開いた。

「ここはどこ? この世界のこと、一通り教えて欲しいのだけど」

自分からこの部屋に現れたのに、場所がわからないというのか。この世界、とは何のことなのか。

「……この世界の人間は口がきけないの? それとも、私の言葉が理解できないの?」

聞きたいことは幾つかあれど、とても聞き返せるような雰囲気ではなかった。かといって、何も答えないままでいられる雰囲気でもない。
この状況にフラストレーションが溜まっていっているのだろう。彼女から徐々に溢れ出す殺気に、何人かがその場で崩れ落ち始める。
このままでは、まずい。

「答えてくれないなら良いや。……消えて」

彼女の手元に、どこからともなく身の丈ほどの大鎌が現れる。そして、彼女が最後の一言を発した瞬間、文字通り殺気が爆発した。
荒れ狂う暴風の中にいるような感覚。風に押されて、それより前に進むことはおろか、まともに目を開けていることさえできない。

「っ、ま、待ってくれ……っ!」

そんな中、僅かに開けた片目が捉えたのは、2本の針が振り切れた計測装置だった。それも、一つではない。目の前に並ぶ計測装置の、視界に捉えたその全ての目盛りが振り切れていた。
普通は目の前の1台しか反応させられないもので、だからこそ、一度に何人もの人間を調べることができていた。それなのに、少し離れたあの場所から、一つと言わず複数の装置を振り切らせるほどの霊力を持つ人間。

何者かもわからない少女。けれど、彼女が欲しい。審神者として、彼女の秘める能力が。
計測装置の針を振り切らせることができる者など、審神者の中でもほんの一握り。間違いなく、彼女は熟練の審神者と同じか、それ以上の働きができる人間だと確信した。

私の声に、少女が私を認識する。その眼差しはたちまち冷や汗をかかせるものだったが、歴史を守るという使命のため、意を決して交渉を持ちかけた。

「……こ、ここは我々、時の政府の管轄する施設で、審神者の適正検査の会場だ」
「さにわ、って何?」
「……審神者とは、眠っている物の想い、心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる技を持つ者。簡単に言えば、刀剣に付喪神としての人の姿を与え、敵と戦わせられる者のことを言う」
「刀剣を付喪神に……?」
「ああ。この場にある装置の全てが、君に類い稀なる審神者の適正があると示している。我々と共に戦ってもらえないか!」

勢いに任せて話しきる。話す前と変わらず、冷めた視線をこちらに向ける少女。火に油かとも思えたが、どのみち殺気を向けられているのならと、自分の言葉に後悔はなかった。



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