プラネタリアの結晶

□2つ目の糸
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その連絡が秀一の元に届いたのは、スターリング捜査官が誰かに呼び出されて出て行った、割とすぐ後のこと。

「ホォー……奴らの仲間が、この病院にねえ……」

それは本堂瑛祐がこの杯戸中央病院で、黒ずくめの組織のボスへと繋がるメールアドレスを使う人間を見つけたという話だった。

「その情報源、信用できるのか?──またあのボウヤか。御執心だなジョディ」

どうやらスターリング捜査官はあのメガネの少年に会いに行ったようだ。
ただの小学生ではないと思っていたが、それにしたって、組織のボスのメールアドレスまで知っているとは。あの少年、近いうちに首を挟み過ぎて組織に消されやしないだろうか。

「了解。……ルリア、戻るぞ」
「ええ」

ひとまず、本堂少年と接触した看護師に話を聞くということで纏まったようだ。
スターリング捜査官との通話を終えた秀一と共に屋上を後にする。その横顔はどこか満足気であり、そして同時に微かに懊悩してもいるようだった。


「ああ、この丸眼鏡の少年ね…….」

秀一、ブラック捜査官、スターリング捜査官、そして江戸川少年。彼らが件の看護師から話を聞くという病室に、私も同席した。
写真を見た看護師は本堂少年のことをよく覚えていたらしく、彼が水無怜奈を探していたことを教えてくれた。そして幸か不幸か、本堂少年に以外にも水無怜奈を探す影の存在も。

「それ、どんな人だった!? 声は!?」

これに大きな反応を見せたのはボウヤで、懸命に記憶を掘り起こす看護師へ矢継ぎ早に質問を投げかける。けれどそのおかげか、潜入しているだろう組織のスパイについていくつか情報を仕入れることができた。
曰く、男であること。年末からこの病院に入院し、売店で売られているサンダルを履いていたこと。そのサンダルの入荷は、12月18日からであったこと。

「やはり、組織の仲間がこの病院に潜伏しているのは……」
「ああ。間違いなさそうだな……」

ボウヤと看護師のやり取りを見ながら声を顰め表情を険しくするスターリング捜査官とブラック捜査官。その横で、秀一だけはその口元に浮かぶ高揚感を隠せていない。

「……来たわね」
「ああ」

先程まで滲んでいた懊悩は、既に影も形もなかった。


「今すぐ、水無怜奈を別の場所に移すべきです! このままここで匿うのはリスクが大き過ぎるわ!」
「他に入院させられるような病院の当てがあれば、まだやりようがあるんだが……」

所変わって、FBIの待機室。
水無怜奈を探す高校生どころか、彼女を探す組織の人間の存在が判明しFBIとしても対応を考えさせられる場面だった。声を荒げるスターリング捜査官に、ブラック捜査官は何とも言えない表情で言い淀む。
2人の言は最もかもしれないが、せっかくの機会だ。この好機を逃す手はない。

「放っといて良いんじゃないかしら?」
「良いんじゃないですか? このままで」

思いがけず、秀一と言葉が被った。互いに視線を合わせ──こちらはフード越しではあるが、考えていることは同じだろうと口角が上がる。秀一がわかっているなら、わざわざ私が説明するまでもないだろう。

「わざわざ患者になり看護師にカマをかけているところを見ると、奴らはまだ探りを入れている段階……確証を得てここに乗り込んできたわけじゃない。それにこれは、チャンスだ。一本だった糸を二本にするためのな」

そう、せっかく向こうから来てくれたんだから、そのスパイを捕らえてしまえば良い。方針が決まれば後は対象の絞り込みだが、それに関しては江戸川少年が声を挙げた。

「瑛祐兄ちゃんは冬休み前に学校で話してたらしいから、ここに来たのは21日以前。サンダルが売店に入ったのが18日なら、12月18日から21日までに入院した人を調べれば良いんじゃない?」
「そうね!」
「じゃあすぐ院長に、その日に入院した患者のリストを出してもらうとしよう!」

ボウヤの言葉にブラック捜査官が部屋を出て行く。今後の方針も決まったことだし、とりあえずは彼が持ってくるリスト待ちだ。
ひと段落、とノック──Non Official Coverについて話している3人の後ろで病室の周囲の気配を探っていれば、下の方から視線を感じた。

「何? ボウヤ」
「えっと……ずっと気になってたんだけど、お姉さんってFBIの人なの?」

そう、このボウヤ、江戸川コナン少年だ。

「違うわ」
「え。なら、何で……」

こんな危ないことに関わっているのか。自分だって大差ないだろうにと思いつつ、本来続く筈の言葉に応えたのは秀一だった。

「俺が連れてきた。ルリアの情報網は頼りになるからな」
「赤井さんが?」
「そうなの。君に伝えたイーサン・本堂の件、彼女が突き止めたらしいわ」
「え!?」

ボウヤの目が驚きに見開かれる。秀一とスターリング捜査官に向いていた顔が、その表情と共に再び私に帰ってきた。

「……本当に、お姉さんが?」
「信じられない?」
「ううん、そういうわけじゃないけど……」

どこか煮え切らない態度のボウヤ。その顔は何かを考えているようだったが、それが何なのか、私には分からない。

「でも助かったよ。ありがとう。えっと……」
「ルリアよ。ルリア・ナイトレイ」
「ありがとう、ルリアさん」

最後まで何か言いたげではあったが、ボウヤのその言葉自体には嘘は見受けられなかった。



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