プラネタリアの結晶

□人探しの依頼
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「……水無怜奈を捕らえた?」
「ああ。FBIがベルモットだと踏んでいた、ジェイムズたちが追っていたバイクの運転手が彼女だったらしい」

朝一に届いた秀一からの電話。開口一番の報告に、思わずオウム返しをしてしまった。


昨日、衆院選の立候補者の1人、土門康輝の殺害を目論んでいた黒づくめの組織。彼らは車とバイクそれぞれ2台に分かれ、土門を追っていた。その後ろから、さらにFBIが組織を追っていた。
状況が一変したのは、そんな追走劇が終わろうとしていた頃のこと。土門の乗る車の後ろにピタリと付けていた1台のバイクの前に、ボールを追いかけた少年が飛び出してきたのだ。突然のことに驚いたのもあっただろうし、少年を轢くまいとしたのだろう、バイクは少年を避けるようにして横転した。
当初、そのバイクに乗っているのはベルモットだとFBIは予想していたが、実際に横転したバイクに乗っていたのはキールこと水無怜奈だったそうだ。

「それで?」
「ヘルメット越しとは言え、転倒時に頭部を打ったようでな。ジェイムズがFBI捜査官と共に知り合いの病院へ連れて行った」
「……その病院、バレたら消されるんじゃなくて?」
「ああ。だから院長と、一部の看護師以外は彼女の存在を知らない。あくまで、病院は我々FBIとは無関係だ」

まあ、いくら知り合いでFBI(こちら)の事情を理解していると言っても、所詮は一般人。組織相手に無関係を装い続けるのは一筋縄ではいかないだろうが、そうするのが最善だろう。

「俺たちは暫く、その病院を拠点にする」
「秀一もそこで寝泊まりするってこと?」
「ああ」

私は、どうしようか。そも、私は秀一に協力する気はあるが、FBIそのものに関わる気はあまりない。

「無理して来なくても良いさ」

電話口から聞こえる声は穏やかなそれ。

「……何か知りたいことがあったら連絡して」
「ああ、助かる」

通話を切る前、ククッと喉を鳴らすような笑い声が聞こえた気がした。


秀一からの連絡は意外と早くきた。簡単に言えば、水無怜奈に瓜二つの姉を持つ少年の父親ことを調べて欲しいというもの。
先日、ベルモットと対峙した埠頭で会った黒髪の少女──毛利蘭のクラスメイトである本堂瑛祐という少年。彼の父は「カンパニー」に所属し、仲間らしき男たちに「そろそろ潜る」と伝えていたと言う。

「……カンパニーって、あのカンパニー?」
「ああ、おそらくな」

カンパニーと言えば、あのアメリカ合衆国大統領直属の諜報機関CIAの俗称。もし彼が所属していたカンパニーがCIAのことなら、「潜る」という言葉の意味は一つ。どこかの組織にスパイとして潜入することを意味する。

「何か手がかりになりそうなものは?」
「その少年と父親が写った写真がある」
「OK、データを送って」
「ああ」

写真はすぐに秀一から送られてきた。その前面には、大きく写った幼い少年。そしてその奥に、グラスを傾ける短髪の男性。

「この写真、情報源は?」
「ジョディから送られてきた。写真自体を入手したのはあのボウヤだそうだ」

秀一と再会した時のバスジャック事件。ベルモットの正体を知り、黒づくめの組織を知った埠頭の事件。そして、先日の衆院選候補暗殺未遂事件。
組織が関わる事件において、毎度姿を見せるあのメガネの少年が情報源だという。

「信頼できるのよね?」
「ああ」
「わかったわ」

現状、男についてわかっていることと言えば、CIA所属らしいということと顔のみ。けれど、それらがわかっているというのは結構大きい。
顔がわかっているのなら私が今まで集めたデータと称号できるかもしれないし、どこかの組織に所属しているのなら裏社会での動きに注視すれば良い。

「少し時間をちょうだい」
「ああ。……期待してるぞ」
「っ! ……当然よ」

通話を切り、パソコンの前へと向かう。
まずはこの写真をパソコンに取り込んで、国際人民データ機構もどきに蓄積された人相データとの称号。それからカンパニー──CIAが関わった可能性のある事件やその関係者の抽出。可能ならば、彼のことを直接見聞きしている一般人と遭遇したいところだ。
そして、今現在も彼が生きているならばその所在も欲しい。けれどこれは……本堂少年がしばらく会えず探し回っているところから、もしかしたら難しいかもしれない。もちろん、彼とその仲間が行きつけの店でしていたという話の内容から察して、相当危ないところに潜っているが故かもしれないが。

「……どちらにせよ、腕がなるわね」

これは情報屋、ルリアの腕の見せ所だ。



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