プラネタリアの結晶

□国際人民データ機構
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国際人民データ機構。
前世、世界中のありとあらゆる人間はそれに登録されていた。

過去60年に遡り、戸籍、DNA、学歴、病歴といった個人データはもちろん、家族親戚から友人恋人に至るまで全ての関係者を調べることもできる。つまり前世では、犯罪を犯したことが露見したら最後、それがどこの誰なのか、どんな人間と関わりがあったのか、データへアクセスした人間に対してその全てが丸裸にされていた。
その情報を元に、当事者はもちろん、関係者まで裏の人間に根絶やしにされるなんてことも少なくはなかった。

もっとも、このシステムに登録されない、例外という人間も存在したのだが。
各言う私も、その例外の1人だった。

今世にも素晴らしい技術はある。飛行機なんかの移動手段の発達は飛行船と比べて画期的だし、未開地域の少なさには各国の統治能力の高さや連携体制の強さを感じる。
そして今世の現代は情報社会。情報は何よりの武器になる。だからこそ、世界中の人間が一元的に管理されていたあのシステムがないというのは残念に思えた。

個人の情報を集めたい時。普通にデータベースに侵入して、1人ひとりの情報を盗ってくるのでも構わない。だが、もし今世に国際人民データ機構があれば、同じ時間と手間でより多くの情報を得、より有利に生きていけるだろう。
登録させる情報如何によっては、世界の情報戦争の鍵を握ることだって可能だ。誰もが私の顔色を伺い、行動する。そんな世の中になっていたのなら、あの事件は起きなかったかもしれないのだから。

偽善だと嘲笑う人間もいるかもしれない。
独裁者と同じだと罵る人間もいるかもしれない。
けれど私は決めた。腐っている部分を取り除き、正常な部分だけでこの世界を構築していくことを。

そのために私は、今世に国際人民データ機構を生み出してみせると。


「ハッキング完了っと」

目の前のディスプレイには、「net-in beika Sta.」とその横に「connected」の文字が表示されている。
「ネットイン米花駅前店」は先週新しく出来たネットカフェ。画面は、監視カメラや各パソコンなど、店内のネット環境へのハッキングが完了したことを示していた。

情報屋への連絡、特に暗殺依頼なんてものをする人間は、自宅のパソコンや自身の携帯なんかからは決して連絡してこない。依頼したのが自分だと、こちらにバレることを恐れているのだ。
何も知らない一般人でさえ、ルリアに連絡を取ったことを周りの人間に知られなくないと考えて、公共のパソコンからアクセスするものもいる。
足取りを掴み難い顧客の情報を得ると同時に、国際人民データ機構を構成する個人データも収集する。ネットカフェは一度に情報を得られる場所で、新たな店舗ができる度にハッキングシステムを仕掛けていた。

因みに、最近は銀行のATMにも同様のシステムを侵入させ、タッチパネルであるのを利用して指紋採取も進めている。

パソコンを落として自室からリビングに戻ると、テーブルの上の携帯が震えていた。
表示されている番号は、先日連絡先を教えた恋人のもの。もちろん登録名の表示はない。そもそも、この携帯の電話帳には誰一人として登録されていないが。

「もしもし」
「俺だ。……少し、頼みたいことがあるんだが」
「それは貴方個人の頼み? それとも、FBIとしての依頼かしら」
「FBIに関わることではあるが……俺個人の依頼、だな」
「……いいわ。何をすればいいの?」
「直接会って話したい。明日、時間を作れるか?」
「ええ」
「時間と場所は、後で連絡する」

話がまとまったところで「了解」と通話を切ろうとすれば、電話の向こうから待ったがかかった。

「まだ何かあるの?」
「いや……おやすみ。と、伝えようと」
「! ……ええ、貴方も。おやすみなさい、秀一」

寝る前に声をかけられたのなんて、10年ぶりだ。秀一の言動一つひとつが、私に両親との関わりを思い出させる。
父さん、母さん。もし目覚める時が来たのなら、その時は──。

この秀一からの連絡が、彼がかつて潜入し、今も尚追っている巨大組織に、私が関わりを持つきっかけになる。



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