プラネタリアの結晶

□君との関係性
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「……帰ったか」
「……何してるのよ、こんなとこで」
「お前を待っていたに決まってるだろう」

バスジャックの翌日。
今度こそ暗殺依頼をされたターゲットの視察に行ったが、とりあえず、依頼人の言うような人間には見えなかった。
裏では別の顔を出す可能性を考慮して、発信機と盗聴器、ついでにカメラをターゲットに仕掛けては来たが。

そうして家に帰って来ると、いた。
昨日、24年振りに再会した男がいたのだ。当たり前のように家の前で待っている。
彼が乗ってきたであろう、黒い車が側に止まっていた。

「時間があったら食事でも、と思ったんだが……どうだろうか」
「……これから? 今日中にやらなきゃいけないことはないし、構わないけど」
「ああ。……けど、なんだ」
「大したことじゃないけれど……一緒に食事。それも夕食だなんて、まるで恋人同士みたいだと思っただけ」

──ガシッ

秀一に返した途端、そう効果音が聞こえてきそうな勢いで手首を掴まれ引っ張られた。

「ちょっと何っ!?」

秀一の目は前だけを見据えていて、私の方を気にする素振りも見られない。

「………」
「……秀一?」

力を込めればすぐにでも振り払えるけれど、別に抵抗する気なんてないから大人しく引かれる。止めてあった車の助手席のドアが開けられ、そこへ押し込まれるように乗せられた。
続いて秀一も運転席へと乗り込むと、何を言うでもなく車は発進した。


道中全く会話がないまま、連れて来られたのは洋食屋さんだった。
秀一に続いて車を降りれば、乗った時と同じように手首を掴まれて店内へ連れられる。
席に着いたところで、秀一があれから初めて私の方を見た。

「……どうしたの? なんだか貴方らしくないわね」

いつも冷静な彼らしくない振る舞いに、純粋に疑問をぶつければ、ようやく言葉が返ってきた。

「……俺は、お前に好きだと伝えた。お前からも、好きだと言われたはずなんだがな」
「は?」
「……俺たちは、恋人同士だ」

最初、何の話をしているのかわからなかった。確かに秀一が言うことは事実だけど、それがなんだと思った。
けれど、最後の一言を聞いて理解する。

「……私、貴方から付き合ってほしいって言われてないもの。確かに気持ちは確認したけど、それだけだと思ったわ」
「……そうか」

やはり、私が「まるで恋人同士みたい」と言ったのを気にしていたらしい。
気持ちを確認したところで、その次を示す言葉はあの時なかった。なら、私たちの関係が変化するまでの要素はなかったと、私はそう主張したい。
秀一の中で、昨日のあのやり取りで恋人関係が成立していたとは思いもしなかった。けれど、それなら先程の態度の理由がわかる。
つまりは、拗ねていたと、そういうことか。

「朱音、もう一度言う。……俺はお前が好きだ。愛している。正直、今すぐには無理だが……結婚を前提に、俺と付き合ってくれ」
「……は?」

確かに、しっかり言葉にして言われはしたが……そうくるのは予想外だった。再び気の抜けた声が漏れたのを、一瞬遅れて理解する。

「……結婚? 私と、秀一が?」
「ああ。俺は、朱音と一生を共にしたいと思っている。たとえ別れる時が来るとしても……それを直接伝えなかったことを、この2年、ずっと後悔してきた」
「……私には、よくわからないわ。前は、物心がついた時には父や母と呼べる人はいなかったし。今も、両親との思い出は随分前だし……」

前世は、結婚する前に自らの手で終わらせた。
今世は家庭に恵まれたが、両親の暖かな記憶はもう随分前のことで、今はもう、前世の私としての意識の方が大分強い。

「だが、俺を愛しているとは思ったんだろう? その気持ちがあれば十分さ。それ以上のことは、その時になってみないとわからないからな。もちろん、俺にも」
「秀一にも? ……わかったわ」
「なら、今から俺たちは恋人同士だ」
「ええ。……そういえば、どうしてこの店を選んだの?」
「ん? ああ。好きだっただろう、オムライス。普段クールだが……好物はやはり女の子だな」
「っ……」

前世、まともな生活ができるようになって、初めて注文した料理の味に感動したのを今でも覚えている。
米とトマトと卵。自分にも手に入るような食材で作られたそれにあっという間に魅せられた。秀一が私の元にいた時も何度か作った気がする。
もちろん、今世でも一番好きな食べ物だ。それを覚えられていたことは少し照れくさくもあり、同時にとても嬉しくもあった。



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