プラネタリアの結晶

□警察官夫婦の娘
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「ただいま」
「お帰りコナン君。今日は大変だったみたいね」
「うん……びっくりしちゃった」

関係者の中で一番最後に事情聴取を終えた俺は、高木刑事の車で探偵事務所へと帰ってきた。

まさか、スキーに出かけた先でバスジャックに巻き込まれるなんて、朝出かける時は思ってもみなかった。結局、道具を先に送ったもののスキーも出来ずじまい。
けれどそんなことより、今は、小五郎のおっちゃんに聞きたいことがある。

「ねえおじさん、水島朱音さんって言うお姉さん知ってる?」
「水島朱音……?」

そう、目暮警部と知り合いらしい彼女のことだ。
誰もが予期しなかっただろうあのバスジャックの中、彼女は一切取り乱すことなく、不自然なくらい普通だった。自分に向けられた銃弾を2発とも交わし、バスジャック犯を一瞥で黙らせた。例え俺が探偵でなくとも、気になっていただろう。
高木刑事は知らなかったが、目暮警部は知っていた。なら、元刑事のおっちゃんも知っているかもしれないと思い尋ねてみたが、おっちゃんは首を傾げただけだった。

「その人がどうかしたの? コナン君」
「そういうわけじゃないんだけど……今日同じバスに乗ってて。目暮警部と知り合いみたいだったから、おじさんも知ってるかなぁって思っただけ」
「警部殿の知り合い? ……ああ、誠さんと琴子さんのお嬢さんか」
「え、知ってるの?」

目暮警部の名前を出すと、おっちゃんはサラッと2人分の名前を口にした。

「ああ、元上司の娘だ」
「へぇ……あ、帰る時、お見舞いに行くって警部さんが言ってたんだけど、その刑事さん怪我してるの?」
「……まあな」

おっちゃんが真剣な表情で言葉を詰まらせる。そこにあったのはやるせなさ。自分自身を責めているような、そんな色。
そんな顔をされてしまったら、過去に何があったのかを聞きたくなってしまうのが探偵の性。

「おじさん、朱音お姉さんのお父さんとお母さんってどんな人?」
「はあ? どんなって……誠さんは警視長、琴子さんは警部で、2人共、正義感の強い人だったよ。後は……そうだな、娘の朱音ちゃんのことは殊更可愛がってた。ようやく授かった娘だ、ってな」

正義感の強い警視長と警部の夫婦の間に生まれた、一人娘。両親から大切に可愛いがられて育った彼女。

「確か……朱音ちゃんが生まれた時には、2人共40過ぎてたって話でな。よく、可愛いだろって、写真見せられたぜ」
「へえ、素敵なご両親。ね、コナン君?」
「うん……」
「最近会ってねぇが、本人も明るくていい子だ。学校じゃ、常に首席だって話だったしな」

話を聞く限り普通、いや普通以上に両親の愛情を受けて育ったのだろう彼女。けれど、親の性格を受け継いだにしても、今日の彼女の言動は行き過ぎていた。
なら、彼女を変える何かがあったのだろうか。

「あれから10年。もう大学も卒業してる歳だろーな……」
「そうなんだ……」


おっちゃんから話を聞いた翌日。
誠警視長と琴子警部について、高木刑事に電話してみた。昨日の目暮警部の話を聞いて、高木刑事も気になって少し調べたらしかった。

「え、入院? 10年もずっと?」
「ああ、先輩刑事に聞いた話ではね。10年前にある事件で重傷を負って……それからずっと、意識が戻らないらしい」
「ある事件って?」
「そこまではさすがに教えてもらえなかったよ」

10年間、意識不明の両親。その原因となり、両親に重傷を負わせた事件。
彼女の昨日の態度は、これが原因なのか、それとも……。

「2人が今どこの病院にいるか知ってる?」
「ああ、それなら東都警察病院だよ。でも基本、面会謝絶らしいから、行っても会えないと思うけどね」
「え、面会謝絶?」
「うん。娘の朱音さんの意向でね。会うには彼女から、事前に許可が必要らしい」
「じゃあ、目暮警部もお見舞いに行く時は、いつも朱音さんに許可取ってるの?」
「そうみたいだよ」
「そっか……ありがとう高木刑事」

10年前、被害者は警察官夫婦。
今わかっていることはそれだけだが、可能な限りその事件について調べてみよう。そして彼女が──白か黒か、はっきりさせなければならない。

そう、彼女のことを気にするのは、何も目暮警部と面識があったから、というだけじゃない。
灰原の反応を見るに、あのバスに黒ずくめの奴らの仲間が乗っていたのは確かだ。彼女のバスジャック犯への態度や身のこなし。あれがもし、黒ずくめの奴らの仲間故のものなのだとしたら。このまま放って置くわけにはいかない。
なんたって彼女は、警察官を両親に持つ。やろうと思えば、その内部情報を極自然に組織へ渡せる立場にいるのだから。



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