奇跡ーmiracleー

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四番隊隊舎前



京楽「やれやれ・・・今日もここに足を運んじゃったよ」



浮竹「京楽?」



京楽「あれ?浮竹じゃないの。どうしたの、こんな所に・・・」



浮竹「それはこっちの台詞だ」



卯ノ花「またいらして下さったんですか?お二人共」



京楽「あー、まぁね。気になっちゃって・・・彼女、元気にしてる?」



卯ノ花「ええ。あれから1年、順調に回復しています」



浮竹「そうか、それはよかった」



卯ノ花「よろしければ、声を掛けていってあげて下さいね。では、私はこれで」



京楽・浮竹「・・・・・・」



浮竹「あれから、もう一年か・・・」



京楽「そうだね・・・彼女が順調に回復してくれて、何よりだよ」



浮竹「ショックが大きかったんだろう。無理もない」



京楽「・・・」



コンコンッ



浮竹「失礼するよ」



京楽「元気にしてるかい、咲桜ちゃん?」



咲桜「浮竹隊長、京楽隊長・・・って、まだ何も言っていないのに入らないで下さい」



京楽「いやぁ、ははは」



浮竹「最近はどうだい?」



咲桜「はい。吐き気もないし、食欲も戻ってますので・・・大丈夫です」



浮竹「そうか・・・」



あの日、平子達がいなくなった日・・・彼女は泣いた



それから、ショックが大きかったせいもあるのだろう



体に無理をさせた事もあり、倒れてしまった咲桜は−−四番隊に搬送された



それからは大変だったようだ



食欲は失せ、食べられたとしても戻してばかり・・・



所謂、拒食症と言うやつだった



そのせいで体力も落ち、今のままでは隊務に支障が出る上、彼女の方が保たないという卯ノ花の言葉の元、休隊する事となった



だがようやく落ち着きを取り戻し、回復しつつあった



咲桜「私・・・平子隊長達は、生きている気がするんです」



京楽・浮竹「!?」



ふいに言った彼女の言葉は、2人を驚かせた



咲桜「根拠はありません。でも、信じたいんです・・・信じているんです、隊長達を。だから・・・約束の事、諦めるのは・・・もう少し先にします」



浮竹「水無月・・・」



なぜか、自分の方が胸が苦しくなった浮竹



側にある台に手を伸ばし、一本簪を取る



咲桜の手にあるそれは、あの桜の簪だ



京楽「・・・・・・辛いよ?きっと」



咲桜「失う事よりも辛い事なんて、今の私には思い付きません」



そう、儚げに微笑んだ咲桜



彼女の表情に、京楽までもが何も言えなくなった




















白平子「なんや?まぁたあの女の事、思い出してんねんか」



俺ン中の虚が、めちゃめちゃうるさい



白平子「なんならいっそ、瀞霊廷(向こう)に乗り込んだったらええやん。そんで女さらって、好きにしたったらええんや。愛でるなり、犯し倒すなり・・・な」



おかっ!?出来るかい!



ちゅーか、ええ加減にせい!うるさいんや、毎度毎度!



白平子「帰ってきたるから大人しく待っとれ?大事な話がある?ハッ!結局、帰られへんし話もできへんやん。このまんまやったら、永遠に帰れんなぁ?愛しい愛しい、咲桜ンとこには(・・・・・・・)



平子「うるさい言うとるやろ!黙っとれ!!」



羅武「うおっ!?」



平子「!」



羅武「おいおい・・・いきなり怒鳴るなよ。ビビるだろうが」



平子「あー・・・すまん」



現世に逃れてから、何年・・・いや、何十年経ったのだろうか?



なんとか虚化の解除に成功していた彼らだが、内なる虚の存在に慣れていなかった



特に、平子真子は−−



自分と同じ姿形をした、だが白い平子真子



それが、内なる虚の姿だった



ローズ「もしかして、また虚に何か言われた?」



平子「なんでやねん?」



リサ「あんたが怒鳴って目ェ覚ます時は、だいたいそうやないの。で、何言われたん?」



平子「・・・・・・」



白「チェリーちゃんのこと?」



平子「っ・・・・・・ちょっと外、出てくるわ」



ひよ里「すっかり真子の弱みやな、咲桜は」



ローズ「仕方ないんじゃない?好きなんだから。それに真子、あんな約束しちゃったからね」



ひよ里「約束?なんやねん、それ」



羅武「そういや、ひよ里は知らねぇんだったな。真子の奴、咲桜に絶対に帰るって約束しちまったんだよ」



ひよ里「!?」



ローズ「大事な話があるって言ってたし。帰ったら告白するつもりだったんじゃない?まあ、今はどうするつもりなのか知らないけど」



ひよ里「・・・・・・」



外に出た平子は、屋根の上で空を見上げていた



拳西「咲桜の事か?」



平子「・・・んぁ?なんや、拳西かい。今はひとりにしてくれや」



拳西「・・・」



同じく屋根に上がってきた拳西は、平子の背中を見つめる



完全に猫背であるその後ろ姿からは、葛藤と不安が感じられた



浦原「何してるんスか、お二人共?」



平子「今度は喜助かい・・・お前らグルか?」



浦原「なんの事っスか?」



拳西「いい、こっちの話だ。で、何しに来た?」



浦原「いや、まあ、その・・・虚化については、未知の部分が多いもんで・・・皆さんの様子を見に」



平子「・・・・・・すまんなぁ、喜助。世話掛けるわ」



浦原「いえ・・・・・・むしろ、謝罪するべきなのは、僕の方っス」



平子「はぁ?なんでお前が謝んねん?」



浦原「咲桜サンとの、約束の事っスよ。あの時、虚化の解除ができていれば・・・平子サンは咲桜サンとの約束を果たせた。なのに・・・」



平子「・・・その事は、もうええねん」



浦原「え?いいって・・・」



平子「あいつと俺は・・・もう色々とちゃうねん。仮に帰れたとしても、俺と咲桜はもう普通の恋仲にはなれへんかったやろうし。このまま、俺の事は忘れて他の奴と幸せになる方が、咲桜のためやと思うわ」



浦原「平子サン・・・本当に、それでいいんスか?だってあなたは・・・!」



平子「俺は!・・・あいつが無事でおんのなら・・・生きとってくれとんのなら・・・なんでもええねん・・・・・・しゃーから頼むわ・・・諦めさせてや・・・頼むわ、ホンマに・・・」



浦原「平子、サン・・・」



拳西「・・・」



こんな風に項垂れる平子を、2人は初めて見た



彼は−−本気で咲桜を想っていた



本人でも気付かないうちに、本気で咲桜を愛していた



その想いをこの日、平子真子は−−無理矢理、心の奥底に仕舞い込んだ
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