奇跡ーmiracleー

□2
1ページ/10ページ




咲桜「ハァ・・・」



五番隊へ移動となってから、早1ヶ月が経過



もうすぐ昼時となるこの時間、隊舎のデスク前で頬杖を付きため息を溢す第三席・水無月咲桜



隊長・平子真子に振り回される、少し面倒な日常を送っていた



移ってきたばかりの自分を気にしてなのか、それともわざとなのか



彼はよく咲桜の周りに“出没”する



この前も、お昼を隊舎の外で済ませようと出掛けるつもりだった矢先・・・



突然後ろから、「どこ行くん?」と声を掛けてきた



驚いて思わず飛び退いた咲桜を見て、平子は口隅を上げていた



その顔はまるで、悪戯が成功した子供のようだった



咲桜「ハァ・・・」



質が悪い



平子「ため息ばっか吐いとると、幸せ逃げてまうでぇ?」



咲桜「にゃっ!?」



驚いて反射的に姿勢を正し、入り口の方へと顔を向ける



そこにはやはりと言うべきか、口隅を上げている平子がいた



咲桜「お、驚かさないで下さい」



平子「にゃっ、て・・・猫かいな、お前は。まあ、可愛いからええねんけど」



咲桜「良くありません。隊長が驚かせたからでしょう?忘れて下さい、可及的速やかに」



平子「嫌や」



咲桜「い・・・」



平子「そんな事より咲桜!お前今日、ずぅっと隊舎に居ったやろ?」



咲桜「書類仕事してるんですから、当たり前です」



平子「昼飯は?」



咲桜「まだですけど」



平子「そうかい。なら、ちょっと付き合ってや」



咲桜「何にですか?」



平子「飯や、昼飯。俺もまだやねん。ついでにちょろっと散歩でもせぇへんか?飯の後なら、丁度ええ腹ごなしになるやろ」



咲桜「あ、いえ。区切りがいいので、こちらの書類を片付けてからお昼にしようかと・・・」



平子「なんや、あとちょっとやんけ。したら俺、ここで待たせてもらうわ」



咲桜「いえ、それでは隊長のお昼が遅くなってしまいます」



平子「気にしなや、もうちょいなら待てる。それに、咲桜は優秀やからな。そないちょっとの山、すぐ片してまうやろ?」



「ちょっとの山」と言ってはいるが、その厚みはほんの2、3cm



山とも言えないだろう



咲桜「・・・・・・」



平子「ふわっ・・・」



彼女が困ったような視線で見つめる中、室内のソファに腰掛け欠伸を噛み殺す



それに気付いてはいたが、彼はあえて咲桜から視線を外していた



目が合えば、おそらく自分はニヤけてしまうから



周囲からは常に、つまらなさそうな顔をしていると言われている



だが、実際はそうでもない



本当に困ればそういう顔をするし、恐怖を感じれば怯えた顔だってする



悲しい思いをすれば、涙に濡れた瞳が揺れるし顔にも出る



ビックリすれば驚いた顔もするし、怒る事も不機嫌そうな顔をする事も勿論ある



ただ、笑う事が少ないだけ



滅多に笑わない事もあってか、つまらなさそうな顔をしているのが常だと思われているのだ



その表情を崩せた時、平子は「してやったり」と思うのだ



だからこそ、ニヤけてしまう



これは彼女本人には、勿論だが内緒だ



というより、彼本人しか知らないお楽しみとも言える



少しして、諦めたらしい



咲桜「・・・・・・10分、15分程・・・お時間下さい」



仕方なさそうな口調ではあったが、その発言を了承したと捉える平子



平子「構へんで。ゆっくりやりや。慌ててやってミスでもしてもうたら、それはそれで面倒やろ?」



咲桜「は、はい・・・」



申し訳なさそうに返事をする咲桜だったが、実際にそう思っていたのは平子だった



急がせたり、焦らせたりする気はなかったのだから



だからか、構わないと言った時の彼の口調は優しいものだった



それから少しの間、平子はこの部屋で適当に過ごす



自身の毛先を弄ったり、棚にある書物をパラパラと適当に読み漁ったり



時折、横目で彼女に視線を向ける



本人は集中している様子で、こちらの視線には気付いていないらしい



見ていて不思議に思ったのは、時々彼女の眉間にシワが寄って目を細めていた事



何度かその様子が見られた



平子〈目ぇ疲れとるんやろか?〉



書類仕事をしていて目が疲れるというのは、平子だって何度も経験している症状だ



だが片付けられた書類の山を見る限り、そこまでの量ではなさそうだ



彼女は自分より背が低く、座高は見た限り身長の半分くらいだろう



自分の身長は、175か6はあったはず



対して彼女の身長は確か、160cm前後



つまり彼の見立て通りなら、彼女の座高は70〜80cm前後



そこまであるような山でもない



咲桜「平子隊長」



平子「んぁ?」



咲桜「申し訳ありません、お待たせ致しました」



気付けば時間は経っていたらしく、彼女は宣言通り、10分〜15分の間で終わらせた



平子「ゆっくりやり言うたやろ。慌てんでもええで?」



咲桜「いえ、大丈夫です」



平子「・・・・・・さよか。ほな行くで」
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ