奇跡ーmiracleー

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【現在】






「久し振りやなぁ、藍染」



その声を聞いた瞬間、私の思考が停止した−−気がした






肩までの銀髪が揺れて顔を向けられた瞬間、俺は懐かしい気持ちになった



相変わらず綺麗な、蒼色の瞳が俺を見る



なぁ、お前今、どう思うとるんや?



俺は−−あぁ、生きとった



そう思うたんや、良かったて






私が記憶しているその人は、昔はもっと髪が長かった



でも今は短くなっていて、オカッパになっているその髪型は少し特徴的だと思う



現世の服装だけど、周りにいる彼らもあまり変わっていない



あの人も、あまり変わっていないように思う



彼を見た瞬間、思考が停止した気がしたけど



次に思ったのが−−やっぱり、生きていた



喜んでいいのか、知らされなかったことに怒っていいのか



正直、わからなくなった






前に見た時も思うだけど、外見はあんま変わったようには見えへんかった



あぁ、でも髪が短なったな



おまけに、なんや綺麗になりよった



前はどっちか言うと、可愛いって言葉が合っとった気がするんやけどな






話したい事はたくさんある



言いたい事もたくさんある






話さなあかん事はある



言わなあかん事もある






だけど、何から言えばいいのかわからない






せやけど、頭ん中で整理できへん



何から言うたらええんか、ようわからん






今は戦闘中、どちらにしろ話が出来ないのはわかっている






どっちにしろ、今から大事な戦闘の開始や



のんびり話なんかできへん



いや、そもそも



そもそもや



俺はあいつと、話なんかしてもええんやろうか?



あの約束から100年は経っとる



てっきり、俺はあいつが忘れた思うてたんや



したらどや、律儀に約束守って、ずっと俺を−−



こんな俺を、あいつは100年も・・・



忘れとっても良かったんや



あないな約束、忘れとっても良かったんやで?



したらお前も、もっと自由に生きられたやろ?



あんましじっと、あいつの顔が見られんかった



言わなあかん事も言いたい事も山程ある



けど、あかんわ



あいつに対する罪悪感の方が強過ぎて、なんも言えへん



何から言うたらええんか、思い付かんのや







さっきの一瞬、目が合った気がした



でも、悲しそうに細めたすぐ後、少しそらされた



構わなかった



生きているのなら、いつだって話はできる



いつだって会えるから



でも、私から行ってもいいのだろうか?



だって、私は彼と約束した



その約束が私にとって、唯一の希望だった



生きる理由だった



チャリ・・・



後頭部で、一本簪に付いた桜の飾りが、寂しそうに揺れた気がした



彼は根が嘘つきだけど、仲間を大切にする人だった



約束を違えるような人では、なかった



だから私は信じた



生きている事を



約束を守ってくれる事を






今更やんけ



あいつは、根が真面目やから・・・約束なんかしたら死んでも守るような奴や



昔からよう知っとった



知っとったくせに、今更忘れろなんて虫が良過ぎる・・・



わかってんねん、なんもかんもが今更なんやって事は



しゃーから会いたなかったんや



ホンマ、今のあいつ見とったら・・・罪悪感しかあらへんわ



前は腰まであったはずの銀髪は短なっとるし



不動の三席や言われとったはずが、なんや白い羽織着とるし



五の字を背負った、白い隊長羽織



何より、あの日にあいつを置いて行った事そのものが、悪かったと思うてる



100年前は、俺があの羽織を着とった



あいつ−−水無月(ミナヅキ)咲桜(サクラ)は、五番隊第三席やった






今でも覚えている



長い金髪に隠れた、五の字を背負った隊長羽織を着た背中を



私は当時、五番隊の三席だった



そして彼−−平子真子は五番隊の隊長だった



全てが始まったのは






あん時からやった






でもまずは、






俺らの“はじまり”から、語ったろうやないか






私達のはじまりは、あの日よりもずっと前に遡る−−
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