奇跡ーmiracleー

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平子「・・・」



目の前に横たわる、浅い呼吸を繰り返している咲桜を見つめる



結局、卯ノ花の言葉に甘えてここにいる



検温の結果、熱は軽く40度にまで達していた



平子「・・・何してんねん。阿呆」



そう言って、汗で頬に張り付いた横髪を払ってやる



咲桜「ん・・・」



平子「っと、すまんな。起こしてしもたか」



薄っすらと目を開いた咲桜に詫びを入れるが、彼女はゆるゆると首を左右に振った



咲桜「たい、ちょ・・・」



平子「喋らんでええ、しんどいやろ?」



咲桜「・・・たい、ちょう・・・」



平子「ん?」



咲桜「て・・・」



平子「手?」



言われて思い当たるのは、先程の行動



横髪を払った時に頬に触れた、その手だ



そっと、手の甲を頬に当ててやる



するとその手に頬を擦り寄せ、安堵したかのように息を吐き出した



平子〈なんやねん、この小動物は・・・〉



少しすると、浅い呼吸には変わりないが、寝息のようなものが聞こえてきた



平子「・・・我慢せんと、言いたい事は言わなあかんで?咲桜」



そう言葉を掛けるものの、当の本人には聞こえていなかった




















羅武「真子」



平子「なんや?ラブとローズやないけ。どないした?」



羅武「今夜飲みに行かねぇかって話してたんだ。お前も来るか?」



平子「お、ええなぁ・・・と、言いたいとこやねんけど、今回はパスや」



ローズ「珍しいね、君がパスするなんて」



平子「ちょっとな。四番隊寄るつもりなんや」



羅武「四番隊?怪我でもしたか?」



平子「そんなんとちゃうわ」



ローズ「あぁ、三席でしょ?君んとこの」



羅武「咲桜か?」



ローズ「こないだ風邪で倒れたって聞いたけど、大丈夫なの?彼女」



平子「まだ熱が下がらへんねん。もうちょい様子見に行ったろ思てな」



羅武「そうか」



平子「ほなな。また今度誘ってや」



そう言って片手をひらりと振った平子を見送った後、ローズが口を開く



ローズ「・・・ねぇ、ラブ」



羅武「なんだ?」



ローズ「あの2人、いつくっ付くんだろうね?」



羅武「知るかよ。だいたい、咲桜の方がまだ気付いてねぇんだ。当分は無理だろうな」



ローズ「見ててもどかしいよ。さっさとくっ付いてくれた方が、他の男達も諦めが付くのにね」



羅武「本人は無自覚で鈍感だが・・・モテるからなぁ、咲桜は」



などと言った会話がされていたとは、この場から既に立ち去っていた平子は知らない



あれから3日は経ったが、なかなか熱が下がらない咲桜



咲桜「たいちょ・・・すみませ・・・」



平子「喋らんでええ言うてるやろ?ったく」



桶に汲まれた水に浸し、絞った手拭いを額に乗せてやる



この3日間、彼は仕事が終わってはこうして四番隊へ赴き、咲桜の看病をしていた



面会可能時間ギリギリまで



と言っても、気を利かせた卯ノ花が多少の延長を許してはいるが



平子「・・・熱、まだ下がらんな。厄介なもんに掛かりよったなぁ、お前」



咲桜「・・・」



何も言えない咲桜は黙ってしまい、視線を逸らす



咲桜「あ、の・・・隊長・・・」



平子「なんや?」



咲桜「ど、して・・・」



どうして、自分に構うのか・・・?



彼女には不思議でならなかった



ただの上司と部下の関係なのに、なぜここまで構うのか



平子「・・・・・・」



言葉の続きを察したのか、彼は黙ったまま咲桜を見つめた



それから手を伸ばすと、彼女の頭に軽く乗せた



咲桜「・・・?」



平子「なぁんか、ほっとかれへんねん。しゃーから構いたくなるんや。まあお前にとっちゃ、鬱陶しいだけかもしれんのやけど」



そう言った彼の言葉を否定するように、咲桜が首を左右に振った



平子「そら、良かったわ。風邪、早治しや。お前がおらんと、仕事溜まってしゃーないわ。あと、昼飯寂しいねん。また付き合ってや」



浅い呼吸のまま、咲桜がクスリと笑った



そんな時だった



ポツッ



平子「?」



また、雨が降り始めたのは



びくっ



彼女の肩が震えたのが、わかった



平子「咲桜・・・・・・あ」



咲桜「?」



突然、何かを思い出したかのように声を上げた平子



それに咲桜が視線を向けると、彼は優しい笑みを向けてきた



平子「なぁ咲桜、知っとったか?雨はな、嫌な事ばっかとちゃうんやで」



咲桜「え・・・?」



平子「雨の後に出る晴れた空はな、めっちゃ綺麗なんやで。俺のオススメは夜ん時の空やけどな。星が綺麗に見えるんやで」



咲桜「そう、なんですか・・・?」



平子「そうや」



咲桜「知りません、でした・・・」



平子「そら良かった!教えた甲斐があるってもんや。ほな、今度見に行ってみよか?まだ梅雨は明けへんからな。しんどいやろうけど、ええモン見られるって思うといてや。瀞霊廷の地形やったら、隊舎の屋根でも十分に見えるやろうしな。ええ星空、見したるわ」



咲桜「・・・はい」



平子「ほんなら、ますます早う治さなあかんな」
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