奇跡ーmiracleー

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ある日の五番隊隊舎



平子「なんや・・・暗いのぉ・・・」



藍染「暗いですね。天気のせいでは?」



平子「・・・・・・惣右介。俺が思た事、言うてもええか?」



藍染「なんですか?」



平子「俺はなぁ、アレのせいや思うんやけど・・・気のせいか?」



そう言って、呆れた顔で“アレ”を指差す平子



顔を向けた藍染は、思わず苦笑してしまう



隊首室の隅で膝を抱え、うずくまっている少女



彼女の長い銀髪は、毛先の方が床に着きそうだ



五番隊で隊首室に自由に出入りできる銀髪の少女といえば、水無月咲桜だけだ



本日の天候は雨、しかも土砂降り



雨が苦手な彼女にとっては、雨が多くなる梅雨は最悪な時期と言えた



この間も、虚討伐任務の最中に突然雨が降り出し、咲桜の動きが鈍ってしまった



心配だったため同行していた平子がカバーしたものの、かなり落ち込んでいた



そう簡単にトラウマを克服できる訳がないとは理解していたが、まさかここまで根が深いとは思っていなかった



だから今ここに、咲桜がいる事に関して何も言わない



ただ居させてやろうと思うのは、平子も藍染も同意見だからだ



独りきりでどこかに居させるよりは、よっぽど良い



平子「にしても、こーなった咲桜は大人しいのぉ」



藍染「普段もだいぶ大人しいと思いますが?」



平子「アホ抜かせ。バリバリ働いとるがな。仕事人間やからなぁ、咲桜は」



藍染「まあ、悪い事だとは思いませんが・・・彼女の場合は少し度が過ぎる時がありますからね」



平子「せやろ?おまけにここまで言われてもなんも言い返さへん・・・んぁ?」



咲桜「・・・・・・」



藍染「・・・言い返してきませんね」



平子「いくらなんでも大人し過ぎるわ」



そう、先程から何も言ってこないのだ



ふと思い返せば、隊首室に入ってきた時も突然だった気がする



ノックも声掛けもなかった気がするが、なんでも律儀な彼女にしては珍しい



思わず藍染と顔を見合わせると、席を立った平子は彼女の前にしゃがむ



平子「おい咲桜?どないした?」



顔を覗き込もうにも、膝の上で組まれている両腕に埋められているため無理だ



返事をしない咲桜が珍しい、というのもあるせいか心配になってきた



平子「どっか悪いんか?具合悪いんなら帰りや」



なるべく優しく声を掛けると、咲桜の指がピクリと動いた



それからゆっくりと顔が上がり、ボーッとした様子の彼女の表情が見えた



平子「咲桜?」



何かを察したらしい藍染も、平子の肩越しに彼女を覗き込む



藍染「顔色が悪いですね・・・」



平子「咲桜、ちょお触るで」



言ってから手を伸ばし、咲桜の額に当てる



彼の手に伝わったのは、温もりというよりは熱−−



平子「っ!?お前っ・・・!」



藍染「隊長?」



平子「惣右介、しばらく抜けるわ!あと頼むで!咲桜、立てるか?四番隊行くで!」



咲桜「ん・・・」



床、そして壁に手を付いて立ち上がろうとする



ゆっくりとした動作で、中腰になったところで・・・



ふら・・・



平子「咲桜!」



ぽすっ



慌てて立ち上がった平子が受け止める



彼に体を預ける形となった咲桜は、辛そうに深く息を吐いた



平子「・・・俺の首に手ェ回せるか?」



また返事はなかったが、ゆっくりと両腕が首に回される



普段の咲桜なら、大丈夫だと言って最初はやらない



平子〈あかん。相当やな、これは・・・〉



彼女の膝裏に手を差し込み、反対の手は背中に回す



所謂、お姫様抱っこで咲桜を抱え上げると、平子は四番隊隊舎へと走った










平子「風邪ェ?」



卯ノ花「ええ、風邪です」



慌てて隊舎へと駆け込んで来た平子に、何事かと出迎えた卯ノ花



彼の腕の中でぐったりしている咲桜を見ると、すぐに中へ通してくれた



卯ノ花「梅雨の時期に入ると、彼女はよく風邪を引くんです。他の隊に移った際も、今回のあなたと同じように隊長達が駆け込んで来たので、もしやとは思いましたが」



平子「なんや、ただの風邪かい・・・めっちゃ慌てて、なんや損した気分やなぁ・・・」



卯ノ花「いいえ、連れて来て正解です」



平子「ん?」



思わず脱力する平子に対し、卯ノ花は真剣な声色で話し出す



卯ノ花「彼女が雨が苦手なのは、もうあなたもご存知ですね?」



平子「そりゃあ、まあ・・・」



卯ノ花「途中で雨が降り出すと、彼女は立ち止まってしまうんです。結果的にずぶ濡れになって、体調を崩します。梅雨の時期は意図せず、それを何度も繰り返してしまいます。おまけに、体調を崩しても放置している事が多い。だからこそ、周りが気付いてあげなければ悪化し、それこそただの風邪では済まなくなります。今回、熱がかなり高いのもそのせいです」



平子「・・・・・・つまり、あれか?気付くんが遅かったって、事なんか?」



卯ノ花「どちらかと言えば、早い方だと思いますよ?別の隊では、倒れた事もありましたから」



平子「・・・」



卯ノ花「どうか、側にいてあげて下さい」



平子「ええんか?俺がおっても・・・」



卯ノ花「ええ。むしろ、その方が彼女も安心できるかと。あんな風に誰かに腕を回している所なんて、見た事がありませんからね」



どこか楽しそうに見える笑みを浮かべて、卯ノ花はそう言った
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