奇跡ーmiracleー

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ある日の夜、十二番隊隊舎



縁側に腰掛けて月を見上げている浦原は、ひとり軽い溜め息を吐いた



平子「案の定、難儀しとるみたいやな?」



浦原「あ、平子隊長。それと、咲桜サンも・・・」



平子「真子でええわ。同じ隊長やろ?」



言いながら歩く平子は、浦原の隣まで来て縁側にある柵にもたれ掛かる



無言のまま頭を下げた咲桜は、平子に手招きされた事で反対隣に立つ



平子「どや、ひよ里は?メンドイやろ?」



浦原「いやぁ・・・」



平子「・・・あいつ曳舟隊長の事、自分の母ちゃんみたいに慕っとったからなぁ。そこに馴染むんは大変やと思うわ」



浦原「そうなんスよねぇ・・・僕は仲良くしたいんスけど・・・・・・なかなか、前の隊長サンと同じようには、いかなくって・・・」



平子「・・・・・・本気で言うてるか、それ?」



柵から離れた平子



咲桜と浦原はそれを目で追う



浦原「?」



平子「知った風な口利くんは嫌いやけどなぁ・・・・・・先に隊長やってるモンの意見の一つとして聞いてや。上に立つモンは、下のモンの気持ちは汲んでも、顔色は伺ったらあかん」



浦原「・・・」



平子「好きなようにやったらええ。それで誰もついてけぇへんかったら、器や無かったっちゅうだけの話や」



咲桜「それに、あなた元々人の顔色伺うのは上手くはないでしょ?」



平子「ま、ええわ。あんま気にせんといてや。あんたちょっと、俺と似た匂いするもんで、お節介焼いてもうたわ。ほなな!」



咲桜「なんだかんだ言って、放っておけないんです、平子隊長は」



浦原「・・・」



平子「咲桜。行くでぇ!」



咲桜「あ、はい!それでは、失礼します」



浦原「あ、咲桜サン!」



咲桜「何か?」



浦原「今・・・幸せッスか?」



咲桜「・・・・・・ええ。退屈はしないわ」



死神になる前−−浦原が知っている頃の咲桜は、下級貴族とはいえ退屈そうで不幸な顔をしていた



だが今の彼女は、知り合ったばかりの頃と比べると、かなり生き生きとしている



だからこそ、聞いてしまったのだ



「今が幸せか」と・・・










平子「いつまでそこで見とんねん、惣右介?」



咲桜「鬼道で隠れて盗み見ですか?趣味悪いですよ、藍染副隊長」



藍染「流石です。いつから、お気付きに?」



平子「お前が母ちゃんの子宮ン中おる時からや。行くで」



藍染「・・・はい」



咲桜「・・・・・・」



藍染「隊長」



平子「なんや?」



藍染「隊長は、やっぱり怖い人です」



平子「こっちの台詞や」










浦原「夜一サン・・・夜一サンの言った通りだ・・・隊長って、面白そうッス」




















翌日



咲桜「ハァ・・・」



夜一「溜め息を吐くと、幸せが逃げてしまうぞ咲桜?」



咲桜「きゃあ!?」



夜一「おーおー、女子(おなご)らしい悲鳴じゃなぁ」



咲桜「・・・夜一隊長、背後から驚かさないで下さい」



夜一「ハハッ、それはすまんのぉ」



銀嶺「・・・」



咲桜「朽木隊長もご一緒でしたか・・・情けない姿を晒してしまいました。申し訳ありません」



銀嶺「ああ、気にするな。お前程出来る奴のそういった姿も、珍しくて可愛いものじゃ。見て損をするわけでもない」



咲桜「恥ずかしいのでやめて下さい」



夜一「ほう?おぬしでも恥ずかしがるか?」



咲桜「夜一隊長は私をなんだと思っていらっしゃるんですか・・・ところでお二人共、本日はどの様なご用件ですか?」



夜一「いや、大した用ではない。ただ単に、おぬしを見かけたものだから声をかけただけじゃ」



咲桜「そ、そうですか・・・」



夜一「そうじゃ、咲桜も一緒に来んか?」



咲桜「一緒にとは・・・どちらに?」



キョトンとした咲桜を引き摺るように、夜一が連れて来たのは・・・



なんと、朽木家だった



銀嶺「おお、関心関心。頑張っとるようじゃの、白哉」



中庭で木刀を持ち、素振りをしていた少年に声を掛ける



白哉「爺様、屋敷に戻られたのですね。今日は隊舎ではなく、こちらでお休みに?」



銀嶺「うむ」



白哉「それはよかった。久し振りに爺様とお話出来て、この白哉も嬉しゅうございます」



銀嶺「うむ・・・ところでどうじゃ、白哉。今日の鍛錬はその辺にせんか?お前に客じゃぞ」



白哉「客?」



咲桜「お初にお目に掛かります。朽木白哉様」



銀嶺「咲桜、そこまで畏まらんでも良い。以前から話しておった、水無月咲桜じゃ」



白哉「ああ、この方が!」



咲桜「え?」



白哉「爺様から、とても優秀な方だと聞いておりました」



咲桜「私のような者には、勿体ないお言葉です」



白哉「・・・爺様が仰っていた通りの方だ。爺様、客と言うのはこの方の事でしょうか?」



銀嶺「ああ。それともう一人・・・」



白哉「もう一人?」



直後、夜一の胸が白哉の顔の横にくっつけられ、彼は不機嫌そうに目を細める



白哉「出たな化け猫!」



手にしていた木刀で払い退けるが、夜一は楽しそうに笑いながらバック転でそれを避けた



夜一「化け猫とはご挨拶じゃなぁ、白哉坊!折角遊びに来てやったというのに」



白哉「黙れ!私がいつ貴様などに遊びに来てほしいと言った!?そもそも朽木家次期当主たる私に、遊びなど不要だ!」



夜一「そうかのぉ?」



咲桜「あ」



白哉「貴様!」



夜一「ハハハハハッ!お遊びとは言え、次期当主が女子(おなご)に髪紐を奪われるようでは、朽木家の将来が思いやられるのぉ!」



白哉「そこを動くなよ、四楓院夜一・・・今から私の瞬歩」



夜一「朽木白哉!敗れたり!」



白哉の言葉を遮り叫ぶと、彼女は瞬歩でこの場から去った



白哉「そうか・・・余程私の怒りを買いたいと見える・・・良かろう・・・ならば身を持って知るがいい・・・私の瞬歩が、貴様のそれをとうに越えているという事をな!」



咲桜「・・・・・・行ってしまいましたね、お二人共」



銀嶺「やれやれ。白哉もあのすぐ熱くなる癖が抜ければ一皮剥けるんじゃがのぉ・・・」



咲桜「はぁ・・・」



銀嶺「さて、茶でも飲むかの。どうじゃ、一緒に?」



咲桜「あ、いえ!私のような者が朽木隊長とご一緒にお茶など・・・」



銀嶺「構わん。どうせあの2人もしばらくは戻らんじゃろう。それまで、付き合ってはくれぬか?」



咲桜「・・・・・・は、はい。では、お言葉に甘えて・・・ご一緒させて頂きます」
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