奇跡ーmiracleー

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浦原喜助が十二番隊隊長に昇進してから、およそ数日後



平子に半ば押し付けられた書類を持っている咲桜は、十二番隊隊舎に向かっていた



咲桜〈なんで私が・・・そりゃあ、私は三席だから隊長、副隊長から見たら下っ端だけど・・・・・・なんでよりによって十二番隊?〉



実を言うと、咲桜は十二番隊隊長・浦原喜助には、あまり接触したくはなかった



特に大した理由はないが・・・なんとなく、ひよ里の怒りの火の粉がこちらにも飛んできそうで嫌なのだ



隠密機動である二番隊出身の彼が、ひよ里は気に入らない様子だ



咲桜「・・・・・・ハァ・・・」



平子「ため息吐くと幸せ逃げるで」



咲桜「にゃあ!?」



平子「しゃーから、お前は猫かいな」



咲桜「・・・違います。ビックリしただけです。それと、前にも言いましたが、驚かさないで下さい」



平子「ビックリしたはこっちの台詞や。こーも簡単にお前のバック取れるとは思わへんて、フツー」



咲桜「ところで、わざわざ追い掛けて来てまで・・・なんの用ですか?」



平子「ああ、これや」



言いながらかざしたのは、数十枚の紙の束だった



まさか・・・と思い、黙ってしまう咲桜



平子「すまんなぁ。お前に渡し忘れとった分があったみたいでな。これでも慌てて追い掛けて来たんやで?」



咲桜「むしろそうならずに済むよう、次回からはきちんと確認してから書類を渡して下さい」



平子「・・・・・・スンマセンした」



咲桜「まあ、気付いて頂けたのでいいですけど。確認を怠った私も悪いですから。今回はお互い様と言う事で、勘弁して差し上げます」



平子〈なんや、立場逆転しとらんか?〉



咲桜「何か仰いましたか?」



平子「なんも言うてません!スンマセン!」



咲桜「何もないならなぜ謝るんですか・・・?」










十二番隊隊舎



浦原「おや、咲桜サン!いらっしゃい!」



咲桜「・・・で、なぜ隊長自らのお出迎えなんですか?」



浦原「まあまあ、いいじゃないッスか」



咲桜「相変わらず、仕事以外はいい加減なんだから」



平子〈相変わらず・・・?〉



浦原「あはは・・・」



ひよ里「あはは、やないわ!ボケ!」



ドカッ



浦原「へぶっ!」



咲桜「猿柿副隊長、こんにちは」



ひよ里「おう、咲桜!で、何しに来よったん、お前?おまけでハゲも一緒やんけ」



平子「ハゲてへんわ、ボケ」



咲桜「十二番隊宛ての書類を届けにです。それにしても、結構飛びますね?浦原隊長」



浦原「のん気な事言わないで下さいよぉ」



ひよ里「一番のん気なんはお前や!」



咲桜「猿柿副隊長に1票」



浦原「えぇ〜?」



ひよ里「ハゲもよう飛ぶで。やったろか?」



咲桜「日頃見てるので、今日は結構です。本当、お2人共よく飛びますよね」



平子「咲桜!」



咲桜「用が済みましたので、私はこれで失礼します」



浦原「あ、咲桜サン!甘味あるんスけど、上がっていきませんか?」



ぴくっ



平子「?」



咲桜「・・・・・・え、遠慮します。勤務中ですので」



浦原「あ、じゃあこれ持っていきますか?昔から好きでしたよね、金平糖」



咲桜「・・・・・・ん」



恥ずかしそうにしながらも、右手を浦原に差し出す咲桜



浦原は笑みを浮かべると、彼女の掌に金平糖の入った袋を乗せた



咲桜「・・・喜助、帰る」



浦原「はいはい、じゃあまた」



平子「な、おい!咲桜!?ちょお待てや!」



スタスタと歩き出した咲桜を、平子は駆け足で追い掛ける羽目に



平子「なぁ、咲桜!どーゆー事やねん?」



咲桜「何がですか?」



平子「相変わらずーとか、昔からーとか。更には喜助て名前呼びやし・・・どないな関係やねん、お前らは?」



咲桜「昔馴染みですが?」



平子「昔馴染み?」



咲桜「水無月と隠密機動は、実は無関係でもないので。ほぼその関係ですが、何せあの性格ですから。喜助とはほとんど友人感覚に近いです。私が二番隊に移動になったのも、水無月家の都合というのが主な理由でした。だからこそ、昔馴染みである喜助がいた、檻理隊に所属が決まったようなものです」



平子「・・・」



咲桜「隊長?」



平子〈なんや、このどす黒いモンは・・・?〉



昔の咲桜を知っている



それだけで、浦原に対して向けられる感情−−



ぐるぐると渦巻くような、だがモヤモヤしているとも言える・・・このどす黒い感情−−



知っている



これはおそらく、“嫉妬”と言う感情だ



咲桜「平子隊長、いつまでボーッとしているつもりですか?早く帰りますよ。まだ仕事は残ってるんですから」



平子「うおっ」



もはや定番と化してしまったコレ



先を促した咲桜が、容赦なく平子の手を掴んで歩き出す



この動作を、自分以外の誰かにしている所は見たことがない



平子〈俺だけ、なんやろうか・・・?〉



それはそれで気分が良い



先程の嫉妬など、どこかへと消えてしまいそうなくらいに・・・



目の前で揺れる銀色の長い髪が、とても美しく見える



どうしようもないくらいに、彼女に落ちている−−



そう、彼は実感してしまった
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