短編&リクエスト

□後
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夜中なのだから当然だけど、周りには人ひとりいない。

波音だけが聞こえる真っ暗な海。



なのに、ハッキリと見える小舟と、海に頭を突っ込んでいる女性。



「あなたが、海神様…?」

「まさか本当に…」



現実主義者の安室さんには信じられない光景かもしれない。

私だって驚いてる。

神様は本当に実在した。

すーっと、音もなく小舟と女性が消えていく。



「待って!これ、海神様のだよね!?」



例の髪飾りを見せると、長い髪の間からとても綺麗な瞳がこちらを向いた。

消えかけていた小舟と海神様は、またハッキリと姿を現わす。



「こちらへ取りに来て頂けますか?」

「私たち、これを返すために来たの!」



………。



小舟に乗ったまま、恐る恐る近いてくる女性。

青白く弱々しい手がゆっくり差し出され、そこに髪飾りを乗せる。

ほんの少し、指先が彼女の手に触れた。

その瞬間、私の中に走馬灯のような景色が流れる。



着物姿の寄り添う男女。

男性から女性に贈られた髪飾り。

村人たちの手によって人身供物とされ、洞窟の中へひとり取り残された女性。



気付けば私の目からは涙が流れていた。



ーーやっと見つかった…


「良かった…返せてよかった、本当に」


ーーありがとう…



嬉しそうに微笑む彼女。

小舟とともに、今度こそ音もなく姿を消した。

その様子を見送ったあと、安室さんの指が私の涙を拭ってくれる。



「帰りましょう◇◇さん」

「はい…っ」



あの光景がフラッシュバックして涙を抑え込むのに必死になっていた私は気付かなかった。

私の首にあった何かが、安室さんの手によって外されていたらしいこと。





ーーー翌朝

夜中に安室さんと2人で抜け出していたことが皆にバレバレで。

蘭ちゃんと園子ちゃんには盛大にからかわれることになる。



慌てる私から離れた場所で、安室さんとコナン君並んでいた。



「安室さん、そんな貝のペンダントなんてしてた?」

「あぁ。これはとある女性から◇◇さんに贈られたものだよ」

「?じゃあなんで安室さんがつけてるの?」

「こっそり外したから」

「…なんで?」

「僕以外から贈られたアクセサリーを◇◇さんに付けさせるハズないだろう?」

「あはは…。あ、そう…」



帰り道に見えた岩場には、洞窟に続く大きな穴があいていた。

朝日に照らされた綺麗な海に向かって祈る。

海神様、また来るね。









→あとがき
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